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医療機関における職業被ばく管理に関するガイド 第1章 :職業被ばく管理体制の構築

略語

 放射線業務従事者:従事者
医療法では放射線診療従事者です。法令によって名称が異なりますが、本稿では従事者として記します。
 センター病院、クリニックを含めたすべての医療機関:病院
 電離放射線障害防止規則:電離則
 放射性同位元素等の規制に関する法律:RI法
 放射線防護ならびに放射線安全管理のための研修あるいは教育訓練の総称:防護研修
 防護眼鏡、防護クロス(スクリーン)、天吊り型防護板、防護手袋の総称:防護機材
 医療機関の長の総称:病院長
 個人の職業被ばくを測定するための放射線測定器(頭頸部用と胸腹部用):個人線量計
 水晶体専用の放射線測定器:水晶体専用個人線量計
 手指専用の放射線測定器:リングバッジ
IVRの術者である医師の先生方へ、リング型線量計を着用しましょう。 -放射線障害の発生防止のために- – WEB放射線管理室 (radi-manage.site)
 放射線安全管理を担当する委員会:放射線安全管理委員会
 労働安全衛生を担当する委員会:労働安全衛生委員会

はじめに

本ガイドは、法令やガイドラインのように拘束力のある文書ではありません。筆者の長年の経験や知見を踏まえて、医療機関における職業被ばく管理方法の一つを示すものです。貴院の参考としてお使いください。

1. 病院の職業被ばく管理体制の構築

1-1 病院全体の職業被ばく管理体制の考え方

病院全体の放射線管理体制を構築してください。病院が医療法とRI法の規制を受けるかどうかで、放射線管理体制も異なっていたり、明確になっていたりすると思います。また、それに伴って、従事者が医療法だけの対象であったり、RI法の規制対象である場合もあります。これらを踏まえて、従事者の職業被ばく管理を行う放射線管理体制を再確認あるいは再構築してください。
職業被ばく管理の対象となる従事者は、医師、診療放射線技師、看護師、臨床工学技士、臨床検査技師等、多くの職種が対象となることが多いです。少なくとも、医師、診療放射線技師、看護師は必須です。また、医師も、循環器科、消化器科、整形外科、脳外科、麻酔科、放射線科、救急部門等、多くの診療科が対象になる病院が多いと思います。したがって、放射線部門だけの問題ではなく、病院全体で対応する必要があります。また、従事者の職業被ばくが問題になるのは主にIVRを施行する医師です。IVRは放射線を利用した救命行為であることが多いです。目下の最大の懸念は、職業被ばく限度を遵守するために、従前実施できたIVR件数が実施できなくなってしまうことです。IVR件数が減るということは救える命が減る可能性があるということを意味します。図1に改正電離則施行前後の循環器領域の年間IVR実施可能件数(第6回)を示しました。改正電離則の施行後、適切な放射線防護措置が的確に講じられなければ、循環器領域では、施行前には421件実施できたがIVR(図1赤〇)が、施行後には199件(図1青〇)と半分以下しかできなくなると推定しています(ただし、適切放射線防護措置が的確に講じられれば施行前と同様の件数が実施可能とされています(図1緑〇))。これは、病院だけでなく社会にとっても大きな問題です。したがって、病院全体に関わる大きな問題として捉え、対処することが重要です。また、従事者は病院の職員であることがほとんどです。この問題は、職員の労働安全衛生ならびに健康管理にとっても重要であることを認識する必要があります。
病院長は、これらの認識の上で、病院全体としての職業被ばく管理体制を構築してください。放射線安全管理体制が既に構築されていることが多いと思います。また、職業被ばく管理は労働安全衛生の一面も持ち、労働安全衛生委員会も関係します。これらの委員会を準用するのが良いのか、新たに組織を編成した方が良いのかを検討してください。ただし、既存の委員会を準用する場合は、その委員会が扱う種々の問題の一つとして職業被ばく管理を扱うことになり、重要度が希薄になる可能性があることに留意してください。また、労働安全衛生委員会は多くの部署の代表者で構成されていると推察しますが、その代表者が職業被ばくに精通しているとは限りません。労働安全衛生委員会の下に小委員会を設置するくらいであれば新規に編成する方が適切です。既存の委員会を準用する場合でも、新規に委員会を編成する場合であっても、労働安全衛生委員会や放射線安全管理委員会と情報の共有を図り、連携してください。

1-2 職業被ばく管理に関わる院内組織

院内の職業被ばく管理を担当する委員会の構成メンバーを考える必要があります。
その一例を図2に示しました。
病院にとって、少なくとも当面は重要課題の一つになることが多いです。また、多くの部署の理解と連携が必要になります。そのため、病院長の強いリーダーシップが不可欠になります。そこで、病院長を主要なメンバーとすることを推奨します。委員長とするかは体制や活動方法にもよります。
病院で放射線安全管理を主導する方も重要なメンバーです。
放射線科代表者(医師)あるいは診療放射線技師長も必須です。複数とするかは病院の規模や体制(人数等)によります。
循環器科、消化器科、整形外科、脳外科、麻酔科、放射線科、救急部門等、多くの診療科が対象になることが多いです。すべての診療科の代表者(医師)をメンバーにするのは現実的ではありません。そのため、多くの診療科をリードできる医師か被ばく線量の多い診療科の代表医師を複数名メンバーとすることが考えられます。部長医師とIVR専門医師が異なる場合は適宜判断ください。
看護師の代表者も必須です。看護師の一部も職業被ばく線量が多いです。放射線装置を設置した内視鏡部門の看護師の被ばく線量が多いことは知られています。また、線量の多寡に関わらず従事者管理が必要な方も多いです。対象となる人数も多いことから、これらの部署に応じて複数メンバーとすることを推奨します。
医師、診療放射線技師、看護師以外の医療従事者等が従事者管理の対象になっている場合は、その人数等を考慮してメンバーとしてください。
病院内組織を運営する上で事務局からの代表者は必須です。職業被ばく管理の一部を事務局(例えば総務課)が担当している場合はその部署の代表者をメンバーとしてください。また、職業被ばく管理には当面財務的な支援が不可欠になります。そのため、財務担当部署の代表者、できれば判断ができる職位の方をメンバーとしてください。
病院の体制にもよりますが、実際の従事者の職業被ばくの低減や防護研修をリードする方が上記メンバーと異なる場合は、その方々もメンバーとして、病院の意志が直接伝わるように、逆に、その方々の意見が病院の意志決定に反映出来る体制とすることが望ましいです。
職業被ばく管理に係る業務(組織)として、個人線量計等の配布・回収、従事者登録・抹消、職業被ばく線量管理、測定結果配布、電離放射線に係る健康診断等があります。これらの作業(部署)の代表者が上記メンバー候補に含まれない場合は適宜メンバーとすることを検討してください。
ただし、職業被ばく管理のための組織の体制(人数)にもよります。また、紹介した構成者は病院の状況や事情によって適宜検討ください。

1-3 病院全体としての取り組みの宣言

職業被ばく管理は、病院のほとんどの部署が係る重要な問題です。また、時間的な余裕もありません。さらに、職業被ばく管理は職員の健康を守るためでもあります。そのため、職員全員に病院全体として職業被ばく管理に向けて臨むことを宣言することを推奨します。職業被ばくの多い医師は、IVRや手術を担当する医師であることが多いです。これらの医師は、患者の救命等のために医療行為を施行しています。これらの医師の協力なしに職業被ばく管理の問題を解決することはできません。場合によっては、IVRを担当する医師と放射線管理部門が衝突することも起こりえます。衝突を避けるために、また、衝突による問題を最小限にするためにも病院長のリーダーシップと病院全体として取り組むことの共有は不可欠です。

付記

職業被ばく管理に向けてた関連記事を下記に記していますので参照してください。

電離則改正の経緯と参考文献等の紹介 – WEB放射線管理室 (radi-manage.site)
医療従事者の職業被ばく管理の課題とNHKニュース – WEB放射線管理室 (radi-manage.site)
手術室における職業被ばくに関する調査をしましょう – WEB放射線管理室 (radi-manage.site)
職業被ばく(特に水晶体)の適正管理に向けた年度中間確認 – WEB放射線管理室 (radi-manage.site)

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