職業被ばく

電離則改正の経緯と参考文献等の紹介

水晶体の等価線量限度の改正を契機とした職業被ばくの適正管理活動を行う上で、改正の経緯を理解しておくことは重要です。また、改正の経緯には改正理由、改正内容、医療への影響ならびに課題を改善する方策等の情報が含まれています。

そこで、職業被ばくの適正管理のために知っておくべき、あるいは役に立つ情報として電離放射線障害防止規則(以下、電離則)の改正の経緯と参考文献等を紹介したいと思います。

電離則改正の経緯と今後の動向を図1にしましました。

2011年に国際放射線防護委員会(International Commission on Radiological Protection, ICRP)は「5年間の平均が20 mSv/年を超えず、なおかつ1年間においても50mSvを超えない」とする職業被ばく限度の一つである眼の水晶体等価線量限度を勧告し(ソウル声明)1)、Pub.118を刊行しました2)

これを契機に世界各国でソウル声明の取り入れやそのための議論が始まっています

わが国では放射線審議会の審議、答申から厚生労働省が設置した眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会(以下、水晶体に関する検討会)での議論3)と報告を受けて2020年4月1日、水晶体の新等価線量限度の取り入れを基軸とした改正電離放射線障害防止規則(電離則)4)が公布され、2021年4月1日に施行されることになりました(本原稿執筆時点)。つまり、現在は橙色で示した図1の5の直前になるわけです。

わが国における従前の水晶体の等価線量限度は150mSv/年であり、以下に示すとおり1年平均で約7分の1にまで引き下げられることとなりました。

150 mSv/年 ⇒ 100 mSv/5年かつ50 mSv/年

  ただし、施行後2年間は特殊な事情の医師に限っては50 mSv/年とする経過措置が盛り込まれています。

6回にわたる水晶体に関する検討会における会議ではその都度資料と議事録が公開されていますので一読することを推奨します。水晶体の等価線量限度を引き下げた場合の医療現場に与える影響やそれを回避するための方策を理解するための情報が詰まっています。

さて、水晶体の新等価線量限度を超える従事者が多いのは医療分野です。水晶体に関する検討会の報告書5)によれば、2016年度の約50.3万人の放射線業務従事者のうち水晶体の等価線量はほとんどは年間20 mSv以下です。約2,400人が年間20 mSvを超えており、そのほとんどが医療分野です。したがって、法改正に伴う水晶体の等価線量限度の引き下げで最も課題となるのは医療分野ということになります。ただし、水晶体に関する検討会において医師の個人線量計の着用率に課題があることも明らかになりました。Interventional radiology(IVR)等の放射線診療に従事する医師の個人線量計の着用率が高まれば自ずと水晶体の等価線量も上昇することになり新等価線量限度を超える可能性のある従事者の割合は高くなることとなります。

さらに、筆者は日本放射線技術学会の関係法令委員長を12年務め、また、日本診療放射線技師会が行っている事業である“医療被ばく低減施設認定制度”のサーベイヤーを務めており、多くの病院の放射線管理状況を実際に見させていただいたり、相談を受けたりしてきましたが、職業被ばく線量を測定する個人線量計の配布・着用には、着用率以外にも課題があると考えています。X線透視装置を設置したX線診療室内に放射線防護衣(プロテクター)を着用して放射線業務や介助業務を行う場合、放射線防護衣で防護した部位と防護していない部位で線量差が生じ不均等被ばくになります。図2に放射線防護衣を着用した場合の個人線量計の着用部位を示しました。放射線防護衣で防護された胸腹部(男性は胸部、女性は腹部)に1個、放射線防護衣で防護していない頭頚部(男女共通)に1個の合計2個の個人線量計を着用しなければなりませんが1個しか配布していない病院があります。このような病院では職業被ばくは正しく測定・評価されていなことになります。つまり、個人線量計の配布と着用に課題があるということになります。

したがって、測定・管理すべき職業被ばく線量が増加することに繋がる、法的に必要な個人線量計を100%着用させる方策を講じた上で、従事者の水晶体を中心として職業被ばくを低減し水晶体の新等価線量限度だけでなく実効線量等の線量限度を遵守するという相反する2つの目的をこの短期間に同時に達成しなければなりません。

職業被ばくの適正管理の課題は2つ

  1. 法的に必要な個人線量計を100%着用させる ⇒ 記録される線量は高くなる
  2. 水晶体の新等価線量をはじめとする職業被ばくの線量限度を遵守する

IVR等の放射線診療を行う医療従事者の職業被ばく線量を低減する方策は以前から関係学会等から提唱されています6)。改正電離則の施行に合わせて作成されたガイドラインも公開されています7)。必要な個人線量計の配布と100%着用ならびに職業被ばくの線量限度の遵守という相反することを達成するためには様々な方策を組み合わせて実施することが求められますので線量低減方策の情報収集を行うことをお勧めします。

1) ICRP Pub.118・日本アイソトープ協会訳.組織反応に関するICRP声明/正常な組織・臓器における放射線の早期影響と晩発影響―放射線防護の視点から見た組織反応のしきい線量― https://www.jrias.or.jp/books/cat/sub1-01/101-14.html.
2) International Commission on Radiological Protection. ICRP Publication 118: ICRP Statement on Tissue Reactions / Early and Late Effects of Radiation in Normal Tissues and Organs – Threshold Doses for Tissue Reactions in a Radiation Protection Context. Annals of the ICRP 2012.
3) 眼の水晶体の被ばく限度の見直し等 に関する検討会.https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02959.html

4) 電離放射線障害防止規則の一部を改正する省令.令和2年4月1日厚生労働省令 第八十二号.
5) 眼の水晶体の被ばく限度の見直し等 に関する検討会報告書.https://www.mhlw.go.jp/content/11303000/000549964.pdf
6) 循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン(2011年改訂版).https://www.j-circ.or.jp/old/guideline/pdf/JCS2011_nagai_rad_h.pdf
改訂版が公開されています。)
7)医療スタッフの放射線安全に係るガイドライン.http://jns.umin.ac.jp/jns_wp/wp-content/uploads/2020/10/suisyoutai_pnf_0807final.pdf

個々に紹介はできませんでしたが、以下にIVRの放射線防護ならびに法改正に関して役に立つ参考文献を列挙させていただきました。

8) IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン―Q&Aと解説―、ブックレット・シリーズ3.医療放射線防護連絡協議会、(2004)
9) ICRP Pub.117・日本アイソトープ協会訳.画像診断部門以外で行われるX線透視ガイド下手法における放射線防護.日本アイソトープ協会 2010.東京
10)ICRP Pub.113・日本アイソトープ協会訳.放射線診断およびIVRにおける放射線防護教育と訓練.日本アイソトープ協会 2014.東京
11)日本保健物理学会.水晶体の線量限度に関する専門研究会報告書.2018  http://www.jhps.or.jp/cgi-bin/news/page.cgi?id=97
12) 不均等被ばくに伴う放射線業務における被ばく線量の実態調査と線量低減に向けた課題評価に関する研究.労災疾病臨床研究事業補助金平成30年度総括・分担報告書(研究代表者 欅田尚樹).2019

2021.02.27

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