2. 放射線管理・防護業務の把握と人材確認
2-1 放射線管理業務と担当部署(担当者)の整理、把握
本ガイドでは放射線管理業務と放射線防護業務を分けています。放射線防護をどのように実践していくかで放射線防護に係る業務と担当部署ならびに担当者が変わります。ここでは、まず放射線管理業務の整理と把握を行います。
病院の放射線管理業務の一例を図3に示します。基本的なものだけを列挙しました。病院によって業務は変わるかもしれません。防護研修の業務は防護研修の企画・運営だけにしましたが、取り組み方に応じて様々な業務が生じますので、別の章で詳述します。
また、放射線管理には様々な業務があり、病院によって、担当している部署や職種が異なります。2021年度の労災疾病臨床研究事業による調査結果1)によれば、従事者管理を担当している部署は、放射線部門(診療放射線技師)(63%)と事務局(26%)でした。一つの部署だけで担当している場合は業務量の負担が大きくなります。一方、複数の部署が担当している場合は連携が重要になってきます。従事者の管理だけを考えても、従事者の登録と抹消、電離健康診断の実施と記録、個人線量計の配布と回収、被ばく線量の測定結果の管理、個々の被ばく線量測定結果の配布という業務があります。放射線部門の診療放射線技師や看護師では、当該部署に配属されることが決まった段階で、従事者登録が必要になります。そのため、放射線部門に配属される(管理区域立入り)前に、電離健康診断の実施と放射線測定器の配布準備を行う必要があり、その調整、指示を行う必要(業務)があります。また、電離健康診断を職業被ばく線量による省略基準を設けている場合は、職業被ばく線量を管理している部署と電離健康診断を実施している部署との連携(業務)が必要になります。
実効線量と水晶体等価線量の5年管理が必須になったため、従事者が他の病院から赴任してくる場合、逆に、他の病院に赴任する場合に、被ばく歴(被ばく線量データ)の授受に関する業務もこれから多くなることが予想されます。これまで、このような業務がほとんど無かった病院が多いと思います。このように、職業被ばく管理を適切に行うために、これから発生する、あるいは業務量が増加する放射線管理業務もあります。
このように、放射線管理には様々な業務があり、放射線管理業務と担当部署(担当者)を把握する必要があります。そして、放射線管理業務に応じて、複数の部署の連携を調整、指示する必要があります。職業被ばく管理を適切に行うためには、それぞれの業務の整理と把握は欠かせません。2021年度の労災疾病臨床研究事業による調査結果1)によれば、放射線管理業務を主に行う部署と職員がいる(*)のは、それぞれ22%と20%でした。それ以外の病院では本来業務があって、その上に放射線管理業務を行っているという実状も把握しておく必要があります。逆に言えば、20%程度は放射線管理業務を主に行う部署と職員がいるということです。職業被ばくに関する業務だけでなく、それ以外の放射線管理業務も考慮して、専門の部署と人員配置を検討する機会とすることもご検討ください。
*:放射線管理業務がすべての業務の51%以上を占める
2-2 業務別の放射線管理(者)
病院全体の放射線管理体制の構築の一環とも言えますが、放射線管理責任者、放射線管理実務担当者(放射線管理体制)を把握してください。放射線管理体制の例を図4に示しました。放射線管理責任者は、病院全体の放射線管理を統括する立場と本ガイドでは位置付けます。職位だけでなく、放射線管理のための適切な指示、判断ができる人を充ててください。その下に図3に挙げた業務別の放射線管理担当責任者がおり、また、その下に放射線管理実務担当者がいるかたちが多いかもしれません。例えば、個人線量計の配布・回収を総務課(事務局)が担当している場合は、放射線管理担当責任者が総務課長(あるいは係長)で、放射線管理実務担当者が総務課職員となるかもしれません。また、職業被ばく線量の記録・管理を放射線部門(診療放射線技師)が担当している場合、放射線管理担当責任者が診療放射線技師長(あるいは副技師長、係長、主任等)で、放射線管理実務担当者が係長や診療放射線技師となるかもしれません。
2-3 放射線防護リーダーの存在の確認と育成
放射線管理業務を適切に行うことは、職業被ばく管理の基本です。しかし、それだけでは職業被ばくを低減していくことは難しいです。個々の放射線業務において、その業務に応じた被ばく低減方策を実践していく必要があります。この放射線防護方策を実践してもらうための専門家を、本ガイドでは放射線防護リーダーと位置付けています。循環器科、消化器科、脳外科、整形外科、手術室、救急等の多くの部署で多様なIVRが行われており、それぞれに共通する放射線防護方策と個々のIVRに合わせた放射線防護方策があります。すべてのIVRの現場に放射線防護リーダーがいる状況にないことが予想されます。そのため、病院全体を統括して放射線防護方策をリードできる人材を放射線防護リーダーとして任命し、その役割を明確にすることが肝要と考えています。この放射線防護リーダーを軸に個々のIVRにおける放射線防護をリードできる人材を育成してください。
循環器領域では、循環器系の学会を中心にガイドライン2)を策定して、放射線防護方策を具体的に示しています。(「2021年度改訂版 循環器診療にける放射線被ばくに関するガイドライン」の紹介 – WEB放射線管理室 (radi-manage.site))診療放射線技師を中心とした学会や団体でもガイドラインを策定や講習会を開催しています。(医療被ばくの適正管理に関連する通知やガイドライン等の紹介 – WEB放射線管理室 (radi-manage.site))特に、循環器画像技術研究会主催によるIVR被ばく低減技術セミナーの受講を推奨します。具体的な放射線防護方策を実践的に学ぶことができます。関係する方は一度受講されると良いと思います。本ブログでも紹介しています(ポール法が被ばく低減セミナーで紹介されました – WEB放射線管理室 (radi-manage.site))私も受講しています。そして、これらの中に示された放射線防護方策を的確に実行できるようにすることが必要です。ガイドⅠに示したように、新たな水晶体等価線量限度を担保した上で、従前のIVR件数を維持するためには、適切な放射線防護方策を的確に実行することが必要です。
放射線防護リーダーが医師の場合は、当該医師の専門以外の領域の医師の方々との領域を超えた医師間のコミュニケーションが重要になります。問題となるIVR業務に診療放射線技師が就く場合は、診療放射線技師を通じてコミュニケーションを図ることもあると思います。また、放射線防護リーダーが診療放射線技師の場合が、職種を超えたコミュニケーションが重要になります。さらに、診療放射線技師が就かないIVRの場合は、どのようなかたちで放射線防護方策を的確に実行できるようにするかが課題になります。このような場合に、病院長のリーダーシップが重要となります。
放射線防護方策を的確に実行できるようにするためには、防護研修(略語参照)を行う必要があります。防護研修の企画と運営には放射線防護リーダーの関与が必須となります。なお、放射線防護リーダーの役割や放射線防護業務については、後の章で詳述する予定です。
まずは、放射線防護リーダーの存在を確認し、いないようであれば育成することが必要です。血管撮影・インターベンション専門診療放射線技師(IVR専門技師)資格を有している方が在籍しているようでしたら、当面、その方を充てることを検討ください。なお、放射線管理責任者がIVRの放射線防護に関する専門的知識・技術を有する場合は放射線防護リーダーを兼ねることは可能です。
参考文献
1)労災疾病臨床研究事業.医療分野の放射線業務における被ばくの実態と被ばく低減に関する調査研究.令和3年度 総括・分担研究報告書(研究代表者 細野 眞).令和4(2022)年3月.
2)2021年改訂版循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン.https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Kozuma.pdf
2023.02.18
群馬パース大学
渡邉 浩