職業被ばく

妊娠しても安心して放射線業務に就くために:胎児被ばくを考える

今回は、妊娠中の被ばく(胎児被ばく)について書きたいと思います。

胎児被ばくは、本ブログの対象としては、放射線検査によって患者の胎内の胎児が被ばくするということと、医療従事者が放射線業務従事者(以下、従事者)の胎児の被ばくがあります。今回は主に後者について書きます。
看護師さんは、現時点では女性が多いです。また、医師も女性の割合も多くなっているように思います。
そのため、病院の従事者の放射線管理を考える上で、胎児被ばくは重要な対応事項です。

2021年4月3日の記事で、「比較的線量の高い女性の放射線業務従事者の方が考えておくべきこと」を解説しました。また、2021年4月17日の記事で、「個人線量計の着用方法と放射線業務従事者が妊娠した場合の対応」について解説しました。

比較的線量の高い女性の放射線業務従事者の方が考えておくべきこと – WEB放射線管理室 (radi-manage.site)

個人線量計の着用方法と放射線業務従事者が妊娠した場合の対応 – WEB放射線管理室 (radi-manage.site)

病院における放射線業務従事者管理とリスクコミュニケーション – WEB放射線管理室 (radi-manage.site)

これらの記事を踏まえて胎児被ばくの影響と考え方について解説したいと思います。

まず、IVR等で、外部放射線による妊娠した従事者と胎児の被ばく状況のシチュエーションを図に示しました。放射線防護衣により減弱された放射線が従事者の腹部を照射することになります。さらに、従事者の身体で減弱された放射線による胎児は被ばくします。

次に、胎児の線量は法令に定められた線量限度を確認しておきたいと思います。

妊娠する可能性のある従事者と妊娠した従事者では、以下に示すように、職業被ばく線量限度が異なります。なぜ、このように区分されているかは、従事者の胎児を一般公衆の線量限度以下になるようにするためです。

上図に示したように妊娠した従事者の場合は、腹部表面(放射線防護衣の表面ではない)に個人線量計を着用して、妊娠期間中の線量を測定することが法令で義務付けられています。そして、妊娠期間中に2 mSvを超えないことが線量限度になっています。腹部表面で2 mSvであれば、胎児の被ばくは1 mSvを超えないであろうと考えられるからです。

〇妊娠する可能性のある従事者
・実効線量限度:5 mSv/3月間

〇妊娠した従事者
・内部被ばくによる実効線量限度:1 mSv/妊娠中(*)
・腹部表面の等価線量限度:2 mSv/妊娠中(*)
*:厳密には法令によって異なります。

妊娠する可能性のある(妊娠していない)従事者と妊娠した従事者で、適用される線量限度が異なるということは、放射線管理者が従事者が妊娠したかどうかを知らないと適用できません。しかし、妊娠の有無は個人情報です。したがって、放射線管理者は慎重に扱わなければなりませんし、守秘義務があることを明示する必要があります。

そのため、全従事者に対して、院内の講習会や研修会あるいは個々に、妊娠した場合の連絡方法や守秘義務を負うことについて説明しておく必要があります。従事者側は、妊娠した場合の連絡方法と守秘義務が守られるのかを確認しておいてください。

さて、本題の胎児被ばくによる影響です。

国際放射線防護委員会(ICRP)は、刊行物であるPubl.84「妊娠と医療放射線」(*1)の中で、に「放射線量による健康な子供が生まれる確率」のを表を示しています。この表は、胎児が受けた放射線被ばく線量と胎児影響の関係を理解するのに大変役立ちます。そのため、下記に列挙した書籍(*2、*3)や原稿(*4)に許可を取って引用掲載しています。この記事では許可を得ていないため、掲載できませんが、下記のどれかを入手可能でしたら、是非ご確認ください。

従事者の胎児影響だけの数値を引用すると、胎児の線量が1 mGyの場合、子供が器官形成異常を持たない確率は、被ばくがない場合と同じ97%で、子供ががんにならない確率も被ばくがない場合と同じ99.7%になっています。なお、被ばくしない場合も100%でないのは、医療従事者であればご理解いただけると思いますが、自然発生率があるからです。また、同じ刊行物の中で、ICRPは、「100mGy以下の被ばくを妊娠を継続しない理由にしてはならない。」として事実上100mGy以下では胎児影響はないとしています。

つまり、従事者が妊娠したとしても、胎児の線量を線量限度以下になるように管理できていれば胎児への影響はないと考えても良いということになります。

*1:日本アイソトープ協会・訳.妊娠と医療放射線(ICRP Publ.84).日本アイソトープ協会 2002.(東京)
*2:診療放射線技術選書 放射線・医療安全管理学.南山堂 2020.(東京)
*3:日本放射線公衆安全学会.医療従事者のための医療被ばくハンドブック.文光堂 2008.(東京)
*4:渡邉 浩.看護師の職業被ばくの正しい理解(安心して働くために).消化器最新看護 2012;16 (5):85-89.

ただし、胎児の線量は出来るだけ少ない方が良いですので、放射線防護を適切に着用してください。出来れば、エプロンタイプではなく、全周囲タイプの放射線防護衣の着用を推奨します。エプロンタイプの放射線防護衣を着用し、放射線源側にお尻を向けていると、線量が正しく測定できないことがありますので注意してください。図の左側から放射線が照射される場合です。

また、線量限度を担保するためには、放射線管理者が妊娠したことを知る必要があることも改めて理解してください。

2022.06.11

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です