職業被ばく

医師を中心とした職業被ばくを低減するための具体的な方策Ⅰ

眼の水晶体の等価線量限度が下記のように改正されることに伴って医師を中心に医療従事者の職業被ばく線量を低減する必要があります。

150 mSv/年 ⇒ 100 mSv/5年かつ50 mSv/年

ただし、施行後2年間は特殊な事情の医師に限っては50 mSv/年とする経過措置が盛り込まれています。

眼の水晶体の被ばく限度の見直し等に関する検討会(以下、水晶体に関する検討会)において、水晶体の新等価線量限度が施行されるとこれまで実施してきたIVR等の放射線診療の件数が実施できなくなることが危惧されました。しかし、病院において線量低減策を支援する介入を行った結果、線量低減策を的確に実施すれば従来と同様のIVR等の放射線診療が実施できる見込みが立ちました。

詳細は下記の水晶体に関する検討会の資料ならびに報告書を参照してください。
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_02959.html

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_06824.html

線量低減策の私案を下記に列挙しました。

  • 経皮的冠動脈形成術(PCI)等における天吊り防護板を適切に使用する。
  • 線量に応じて防護眼鏡を使用する。
  • X線装置を用いたERCPを実施する場合には防護クロス(*1)を用いる。
  • 上記の他に防護機材を適切に使用する。
  • 散乱線量を低減するための技術的な方策を的確に実施する。
  • X線量(一次線)を低減できる装置を新規購入あるいは更新する。

*1:メーカによって呼称が異なります。

これらの方策がこれから病院が実施する職業被ばく低減のために行わなければならない方策の中心と言ってよいと思います。

水晶体の検討会で一番焦点が充てられたのは①の天吊り防護板です。

下手なポンチ絵で恐縮ですが術者である医師がどのように被ばくするかを図に示しました。

PCIに用いる心カテ装置はアンダーチューブタイプ(管球が検査台の下側にあるタイプ)になっていて画像を得るためのX線(一次線)は下側の管球から患者さんに向かって照射されます。検査台から下側にも散乱線は生じますが検査台から垂らすタイプの防護シート(図1のc)があれば大幅に低減することができます。

しかし、問題なのは患者さんから検査台より上側に生ずる散乱線です。術者は患者さんから生ずる散乱線を防護するために天吊り防護板を使用しなければなりませんが、患者さんより離して上側に置いていたり、手技の邪魔になるからといって遠くにおいていたりすることがあるようです。

散乱線を的確に防護して線量を低減するためには患者さんに近接するように配置しなければなりません。

これが適切に出来ていれば従来と同様のIVR等の放射線診療が実施できるデータが水晶体に関する検討会で得られています。

心カテ装置は治療する血管の見えやすい角度からX線透視を行うため、管球と検出器をつないだCアームを上下横方向に回転させます。この時に天吊り防護板にあたって邪魔になることがあるようですが。今後はその都度適切な位置に配置することが必須になったと考えていただかなければなりません。

ここで重要になるのは医師を中心とした放射線業務従事者に対する放射線防護教育(研修)です。詳細は別に述べますが、天吊り防護板を的確に使用しないと十分に散乱線を防護できないことを医師を中心に放射線業務従事者の方々に理解してもらうことが重要になります。

比較しやすいように適切な例(図1)と不適切な例(図2)を並べて示しました。

天吊り防護板が適切な位置の場合と不適切な場合の線量を実測してその数値をX線診療室内に掲示したり、線量分布を図示して可視化するなどの工夫も重要です。できれば医師に実際に測定値の変化をその場で見てもらうのが効果的です。

その他にも⑤として挙げた「散乱線量を低減するための技術的な方策を的確に実施する。」を合わせて実施することが求められます。

具体的な方策は循環器内科の先生方の学会等が中心になってまとめられた下記のガイドライン(○1)に載っていますので詳細はそちらを参照してください。また、今回の法改正に合わせてまとめられたガイドライン(○2)も参考になります。

○1:循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン:http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_nagai_rad_d.pdf
改訂版が公開されています。)
○2:医療スタッフの放射線安全に管理に係るガイドラインhttp://jns.umin.ac.jp/jns_wp/wp-content/uploads/2020/10/suisyoutai_pnf_0807final.pdf

2021.02.20

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