職業被ばく

防護眼鏡と水晶体専用個人線量計の着用基準を考える Part-Ⅱ

2021年12月18日に掲載した記事「防護眼鏡と水晶体専用個人線量計の着用基準を考える」において,下記のように,日本保健物理学会のガイドライン1)の中で,“13 mSv”が示されていることを紹介しました.
しかし,この“13 mSv”は測定の不確かさを考慮したものとなっています.
なお,本記事では放射線業務従事者(病院では主に医療従事者を従事者と略して記しています.)

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日本保健物理学会の「眼の水晶体の線量モニタリングのガイドライン」(suishotai-guideline.pdf (jhps.or.jp))1)では,例題として示した中で,「個人線量計の不確かさを考慮して,使用している個人線量計が年間13 mSv(=20/1.5)を超える可能性がある場合,眼の近傍に水晶体に水晶体専用の個人線量計を装着するという考え方もあります.」とガイドラインと言うほど強いものではないと思われますが,一つの基準例として“13 mSv”を示しています.
しかし,この13 mSvとう基準例は個人線量計の不確かさを考慮したものであるので,年平均20 mSvまで余裕があるとは限らないことに注意が必要です.また,線量限度いっぱいでは白内障の発症を防止できない可能性があります.(一部改変)
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図1にIVR術者が散乱線に被ばくするシチュエーションをおおまかに示しています.簡単な図ですがご容赦ください.また,分かりやすいように多少の誇張しているものもあります.

また,下記のように,どの位置でどのように測定した値を水晶体の等価線量として評価,記録するか,という問題があります.
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防護眼鏡を着用していない場合は,頭頚部に着用している個人線量計の測定値から等価線量(3 mm線量当量)を求めて,それを水晶体の等価線量とすることが多いです.防護眼鏡を着用した場合は,頭頚部よりも水晶体の被ばく線量は低くなっていると考えられます.また,頭頚部に着用した個人線量計で測定した等価線量が線量限度を遵守できている場合は,防護眼鏡を着用していても水晶体専用の個人線量計を着用しなくても良いという考えもあります.これは,病院と従事者の間で十分コミュニケーションをとって決めた方が良いと思います.なぜなら,水晶体が被ばくした本当の線量を測定,記録し,従事者に伝えなくて良いのか,というのが第一です.ただし,個人線量計を着用することに従事者が違和感を覚えて作業しづらいということもあるかもしれません.(一部改変)
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そこで,本記事では,この問題を理解して,病院の放射線管理担当者や放射線業務従事者(以下,従事者)が対応するために,図を入れて解説したいと思います.

図1にIVR術者が散乱線に被ばくするシチュエーションをおおまかに示しています.簡単な図ですがご容赦ください.また,分かりやすいように多少の誇張しているものもあります.

水晶体の被ばく線量(等価線量)が線量限度よりも低い場合は,水晶体専用の個人線量計を着用せず,頭頚部に着用している個人線量計の測定値から評価,記録しても良いとされています.散乱線の場合,患者からの距離が頭頚部の方が水晶体よりも近くなりますので合理的な評価方法と言えます.ただし,術者が防護眼鏡を着用している場合は,防護(線量低減)効果を評価できていませんので,過大に評価している可能性があります.

また,白内障のしきい値が0.5 Gyとされました.新しい水晶体の等価線量限度に近い被ばく線量を長年被ばくし続けると,0.5 Gyを超えてしまう可能性があります.そのため,水晶体の被ばく線量が多い従事者は積極的に防護眼鏡を着用することが推奨されます.

しかし,防護眼鏡を着用した場合の水晶体の被ばく線量の測定にも課題があります.赤羽正章2)によると,防護眼鏡の下側からの散乱線を防護できない場合もあります.ただし,現在販売されている防護眼鏡では下側からの散乱線をより防護できるように工夫されているものもあります.また,左右の繋ぎ目(図2,*1)や側面(図2,*2)から入射する場合,この繋ぎ目や側面のフレームには鉛が入っていませんので防護できないことになります.この関係は,患者(散乱線の方向)と術者の頭部の向きの関係が一定ではない場合は,その都度状況が変わってきます.水晶体専用の個人線量計をどの位置で着用するかも微妙に影響してくるものと思います.

このように,実際の臨床現場の状況次第で,測定された水晶体の等価線量が本当に水晶体の被ばく線量なのか,という問題は生じてきます.

そのため,関係学会のガイドラインでは不確かさを考慮して“13 mSv”を基準に水晶体専用の個人線量計を着用してはどうか,という提案がなされたと考えています.

水晶体の被ばく線量の不確かさと水晶体の等価線量限度を遵守するだけでは白内障のしきい値を超えてしまう可能性があるということを勘案すると,防護眼鏡と水晶体専用個人線量計の配布ならびに着用はかなり低い線量から行える環境を整えるべきではないでしょうか.

環境とは,必要な防護眼鏡を配備することと,病院が定めた基準線量を超えた従事者が防護眼鏡や水晶体専用個人線量計の着用を希望するには障害なく申請し,着用できるようにすることです.

従事者には,法令で決められているから防護眼鏡や個人線量計を着用しろ,という一方的あるいは高圧的な指示ではなく,リスクコミュニケーションの考え方を参考に臨むのが良いと考えています.

従事者は,ある意味自分の健康を犠牲にして患者のために医療を行っている方々です.そのことに十分配慮すべきと思います.

いくつかのリスクコミュニケーション活動を行い,論文にもしてきましたので.次回は,リスクコミュニケーションの考え方について掲載する予定です.

1) 日本保健物理学会.眼の水晶体の線量モニタリングのガイドライン.http://www.jhps.or.jp/upimg/files/suishotai-guideline.pdf
2)赤羽正章.水晶体の防護方法と防護メガネの遮蔽効果.Rad Fan 2019;17(9):65-67.

2022.01.10
2022.02.05 改訂(図挿入等)

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