医療機関における職業被ばく管理に関するガイド

医療機関における職業被ばく管理に関するガイド 第4章

4. 線量限度近辺の被ばくを受ける従事者を中心とした対策

本章から、医療機関で職業被ばくを適正に管理するための実務に入ります。2021年度の労災疾病臨床研究事業による調査結果1)を適宜紹介しながら記述します。

4-1 従事者名簿上の把握

本ガイド第3章-1で、従事者名簿の作成を推奨しました。従事者名簿に、職業被ばく線量欄を設けて、2021年度と2022年度の実効線量を記入してください。2021年度と2022年度の2年間にしたのは、実効線量限度と眼の等価線量限度が5年間になっており、現在の始期が2021年4月1日になっているためです。つまり、2023年度は5年管理の3年目になっています。ただし、眼の水晶体の等価線量限度については、経過措置を適用した「経過措置対象医師」(*1)については、2023年度から2025年度の3年間で60 mSvが線量限度になると思われますので留意してください。また、線量測定サービス会社から送付される記録を利用するとか、従事者の中で高線量の方を別途名簿としても構わないと思います。労力と管理のしやすさを考慮して管理してください。職業被ばく線量の欄は、実効線量、眼の水晶体と皮膚の等価線量の欄をすべて設けてください。さらに、妊娠可能な女性の実効線量限度は「5 mSv/3月」、妊娠している場合は「腹部の表面で2 mSv/妊娠期間(*2)」かつ胎児の実効線量が「1 mSv/妊娠期間」です。特に、妊娠可能な女性の実効線量限度は、X線装置を設置した内視鏡室担当の看護師が超える可能性がありますので、線量管理が容易にできるように工夫してください。例えば、妊娠可能な女性の欄は背景を別の色に変えるのも一考と思います。また、3か月ごとの合計の線量欄を設け、枠線を太くするのも良いと思います。

*1:経過措置対象医師に関する参考資料(医政局長通知の抜粋)
医 政 発 0 4 0 1 第 9 号
令 和 2 年 4 月 1 日
厚 生 労 働 省 医 政 局 長
医療法施行規則の一部を改正する省令等の公布について
放射線診療従事者等のうち、遮蔽その他の適切な放射線防護措置を講じてもなおその眼の水晶体に受ける等価線量が5年間につき100ミリシーベルトを超えるおそれのある医師であって、その行う診療に高度の専門的な知識経験を必要とし、かつ、そのために後任者を容易に得ることができないもの(以下「経過措置対象医師」という。)については、令和3年4月1日から令和5年3月31日までの間、眼の水晶体における等価線量限度を、1年間につき50ミリシーベルトとする。また、経過措置対象医師について、令和5年4月1日から令和8年3月31日までの間、当該限度を、令和5年4月1日以後3年ごとに区分した各期間につき60ミリシーベルト及び1年間につき50ミリシーベルトとする。

*2:妊娠期間
妊娠した従事者の線量限度の適用期間(妊娠期間)は法令によって微妙に異なります。

4-2 個人線量計の着用状況を踏まえた実際の線量水準把握

4-1で従事者名簿を作成し、記入した線量はあくまで記録上の線量です。水晶体に関する検討会において、医師を中心に個人線量計を着用していない従事者の割合が高いことが示されました。貴院における従事者の個人線量計の着用状況を調査、把握してください。調査の際には、以下の3点に留意してください。

個人線量計着用状況調査時の留意点

① 配布していない従事者はいないか。
② まったく着用していないか、特定の期間かあるいは特定の業務だけの従事者はいないか。
③ 着用方法は適切か

まず、複数回のX線透視を伴う放射線診療に従事しているにも関わらず、従事者登録をしておらず個人線量計を配布していない医療従事者がいないかどうかを確認してください(ⅰ)。次に、相当数のX線透視を伴う放射線診療に従事しているのも関わらず職業被ばくの測定報告書にMまたはXの表示しかない従事者がいないかを確認してください(ⅱ)。おそらく個人線量計をほとんど着用していない状況と思われます。この2つ(ⅰとⅱ)の場合は比較的分かりやすいです。なお、稀にX線透視を伴う放射線診療に従事し被ばくしている(可能性のある状況を含む)にも関わらず従事者登録できていない医療従事者に関するガイドは別章で記述したいと思います。本章では、線量限度を超えそうな従事者対策に中心にガイドを記述します。
上記2つの場合は、記録上あるいは簡単な調査で分かることが多いと思われます。これらの状況も含めて、放射線診療ごとに現場を担当している診療放射線技師等に指示し、できれば細かく調査を行ってください。報告書の測定欄に実数が記載されていたとしても実際の線量より少ない場合もあります。この数値を鵜呑みしてしまうと、放射線防護研修を行って、いつも正しく着用するようになった時に線量限度を超えてしまう、ということにもなりかねません。これらの調査を踏まえて、実際の職業被ばく線量の推定を行ってください。そうすることで、各部署や診療科あるいは個々の従事者のおおよその職業被ばく線量のレベル(水準)が分かってきます。部署や従事者個人の職業被ばく線量の水準が分かったら、それを下記に示したようにカテゴリー分けしてください。なお、カテゴリー分けをする基準線量は線量限度と強く関係する数値(実効線量:20 mSv/年(5年間の平均))以外は法的な縛りがあるわけではありませんので、個々の病院の状況や考え方で決めてください。また、これらのカテゴリーとその基準線量は、X線装置を設置した内視鏡に従事する妊娠可能な女性の場合でも設定を変える必要があります。この場合は、通常の線量はレベル2あるいは3であっても、“少しイレギュラーな症例等があると線量限度を容易に超える可能性のある”としてレベル5相当としても良いと思います。
また、防護研修については改めて章立てをして記述しますが、この時点で、少なくともレベル5以上の部署や従事者がいる場合は、直ちに被ばく線量を低減するための防護研修を実施してください。また、レベルが低い方だからと言って防護研修が不要なわけではありません。レベルによって防護研修の緊急性、内容や時間数が異なるだけで、すべての従事者に防護研修は必須です。また、線量が高くなる要因を調査して、改善策を講じてください。

被ばく線量によるカテゴリー分け

① レベル6:定常的に線量限度を超える部署や従事者(例:実効線量や眼の等価線量が20 mSv/年以上)
② レベル5:少しイレギュラーな症例等があると線量限度を容易に超える可能性のある部署や従事者(例:実効線量や眼の等価線量が15 mSv/年以上)
③ レベル4:線量限度を超える可能性は低いが線量レベルが高い部署や従事者(例:実効線量や眼の等価線量が10 mSv/年以上)
④ レベル3:線量限度を超えるおそれはほとんどないが、被ばく線量は実数である部署や従事者(例:実効線量や眼の等価線量が3 mSv/年以上10 mSv/年未満)
⑤ レベル2:線量限度を超えるおそれはほとんどないが、被ばく線量は実数である部署や従事者(例:実効線量や眼の等価線量が検出限界を超えて3 mSv/年未満)
⑥ レベル1:ほとんど被ばくしていない部署や従事者(報告書の欄がいつもあるいはほとんどがMかX)
*レベルの線量は目安です。各施設でご判断ください。

4-3 線量限度を超えた(可能性を含む)従事者対応

線量限度を超えてしまった従事者が生じた場合の対応です。基準線量を設けて、線量限度を超えそうな測定結果が出た場合は迅速に報告してもらう(その時点以上の被ばくを避ける)対策を講じることを第3章で推奨していますので、その報告が来た状況になると思います。
その場合は、当該従事者に対して緊急に管理区域内での作業を禁止する措置を講じてください。実際には、誤って測定されただけの場合も考えられますが、実際に被ばくしている可能性があるとして、それ以上の被ばくをさせないようにすることが最先決です。測定結果の迅速報告は場合によっては1~2か月かかっていることがあり、その期間も同レベルの被ばくをしている可能性もありますので迅速性が求められます。
ただし、当該従事者への対応には慎重を期してください。当該従事者の労働権を侵害する可能性もありますので、当該労働者の健康を最優先に考えての措置であることをお話することが肝要です。放射線管理者、労働安全衛生の責任者あるいは所属長らの中から複数名でお話されることを推奨します。
過去に筆者が受けた相談例が2つあります。そのいずれも当該従事者は業務の継続を希望していて、不当に労働権を侵害されることを恐れていたようです。
次に、実際に測定結果の線量で当該従事者が被ばくしたのかを調査してください。イレギュラーに被ばく線量が高くなる事例やシチュエーションがなかったかを調査してください。例えば、難易度の高いIVRでX線透視時間が長い症例が多かったとかです。また、X療室内に個人線量計を置いたままにしていたとか、放射線防護衣に着けたままX線診療室内に置きっぱなしになっていなかったとか、誤って個人線量計がX線で暴露されるようなことが無かったかを調査してください。線量測定サービス会社の体幹部用の個人線量計は実効エネルギーや主な入射方向が特定できる場合があります。そのため、これらの情報が参考になる場合があります。例えば、実効エネルギーが高ければ散乱線ではなく、一次線で直接被ばくしたシチュエーションが考えられます。このような場合、撮影画像に個人線量計が写りこんでいるかを確認することも一考です。また、不均等被ばくの場合には、個人線量計は2個着用しています。頭頸部と胸腹部の線量の関係が通常と異なるかどうかも参考になります。
調査した結果、実際に従事者が被ばくしていることが確認できた場合で線量限度を超えている場合は、病院での最終確認を行った上で、所管する労働基準監督者に報告してください。少なくとも線量限度の管理期間中は、当該従事者は放射線業務に従事することはできなくなると考えるべきです。あるいは、実際に従事者が被ばくしたのではなく、誤って個人線量計が放射線に暴露されたことが明らかになった場合は、その線量を引いた線量に記録を修正してください。その場合は、記録線量の修正を行うことに対する当該従事者の同意を得てください。

4-4 イレギュラーに線量が高くなった従事者に対する対策

4-2で把握した線量レベルが通常の従事者が、線量レベルを超えて被ばくした従事者が生じた場合は、線量限度を超えないまでもイレギュラーに高くなった原因を調査してください。既述したように、難しいIVRの症例でX線透視時間が長くなってしまった症例が無かったか、患者の状態が悪く看護師が親切に患者近くで観察や処置を行ったことは無かったかなどを調査してください。インシデント対応と同様の趣旨で、線量限度を超えるような事態にならない前に、原因の究明と改善策を実施することが肝要です。看護師の被ばく線量が高い場合は、X線透視を行っている医師も含めて防護研修を行ってください。

4-5 比較的線量が高い従事者への注意喚起

線量レベル6のような線量限度を超える従事者については特別の措置を講じる必要があり、対応がなされるものと思いますのでここでは詳述しません。ここでは線量レベル5や4の従事者対応について記述します。
線量レベル5や4の部署や従事者は、線量限度を超える可能性があることや比較的線量が高いことを示して、従事者として管理する側と従事者側が共有することが重要です。放射線は眼には見えないため、放射線に被ばくしているという実感のない方もおります。また、医療行為であるため仕方ない、考えても仕方ない、と考えている従事者もおります。このような状況では被ばく線量は低減する方向には向かいません。線量が高いということを認識してもらうことが重要です。そして、線量を低減するための方策を講じる意識をもってもらうことが必要です。防護研修において、ちょっとした努力で線量が下がることを理解していただいて、それを実践してもらう方向に導かなければなりません。そのためには、まずは基準線量を病院として定めて、その基準線量を超えた従事者については、病院長、放射線安全管理委員長あるいは労働安全衛生委員長名で線量レベルが高いことを文書等で示してください。ただし、その際は、患者を救う医療行為を行っている医療従事者に対しての敬意を示した上で、必要な注意を促すことが肝要と考えています。また、所属長としての実態把握と指導を促すために、当該従事者本人だけでなく、所属長にも併せて当該文書等を示すことも一考と考えています。
従事者として管理する側と従事者側の間でトラブルも起こりやすくなります。病院長のリーダーシップのもとに慎重に対応されることを推奨します。

参考文献
1)労災疾病臨床研究事業.医療分野の放射線業務における被ばくの実態と被ばく低減に関する調査研究.令和3年度 総括・分担研究報告書(研究代表者 細野 眞).令和4(2022)年3月.

2023.06.01
群馬パース大学
渡邉 浩

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