2021年4月1日から職業被ばくの線量限度の一つである眼の水晶体の新等価線量限度を盛り込んだ改正電離則が施行します。改正電離則の概要は厚労省のサイトに掲載されているこちらのリーフレットでご確認ください。
改正電離則の施行まで、この原稿を掲載した日からあと半月ちょっとしかありません。
そこで、施行前に準備すべきことを紹介したいと思います。
(記事掲載時点では施行前でしたが、現在(2021年4月17日)施行しています。)
その前に約1か月前の2021年2月13日に掲載した原稿「医療被ばくの適正管理に向けて」で病院としての管理体制として構築すべきことを3つ挙げました。詳細は当該原稿で確認してください。
- 病院全体としての職業被ばく管理組織(委員会)を立ち上げる。
- 職員全員に病院全体として職業被ばくの適正管理に向けて臨むことを宣言する。
- 現在の職業被ばく管理状況を調査、把握する。
この作業はどこまで進んでいますでしょうか。この準備と作業が今後の活動にとって重要になってきますので早めに完了させることを再度アドバイスします。この原稿で初めて知った方は当該原稿を確認してください。
さて、まずは眼の水晶体の新等価線量限度が2021年4月1日は施行します。特別な事情の医師に限っては経過措置が認められていますが、それ以外は経過措置に該当しませんので注意してください。また、該当する医師であっても対象者になるための措置が必要になりますので改正電離則を確認してください。
また、個人線量計の着用率100%も求められており、既に着用を促す活動を始めている病院も多いと思います。着用率が上がれば自ずと測定される線量も増加し、これまで線量レベルが低かった放射線業務従事者(以下、従事者)が線量限度を超えたり、超えるおそれのあるレベルに達することも考えられますので注意してください。ただし、線量限度を超えるかもしれないのは眼の水晶体の等価線量限度だけではありません。実効線量、特に妊娠可能な女性の従事者の場合には十分に気をつけてください。妊娠可能な女性の実効線量限度は5 mSv / 3月で年換算する20 mSvになるため男性と同じようにも見えますが、管理期間が短い分、厳しい線量限度になっています。
さらに、X線透視下でなおかつ一次線の照射野内にやむを得ず手指を入れることがある従事者や一次線の照射野の近くで長時間手指を使った作業を行う従事者の場合には手指の皮膚の線量を測定するためにリングバッジを配布していたり、今回の電離則改正のタイミングで配布するようになった従事者については皮膚の等価線量限度である500 mSv / 年を超えないようにしなければなりません。
そこで、線量限度を超えないようにするための下記の3つの管理方策をこの4月から実施しましょう。多くの病院で既に実施しているかもしれませんが念のために紹介します。
線量限度を超えないようにするための3つの管理方策
- ① 毎月の従事者の線量をチェックしましょう。
- ② 毎月の測定線量の迅速報告システムを利用しよう
- ③ 個人線量計の回収と線量測定サービス会社への送付を迅速に行いましょう
① 毎月の従事者の線量をチェックしましょう。
実効線量、眼の水晶体と皮膚の等価線量については四半期や年間の線量の積算線量もチェックして線量限度を超えそうになっていないかを確認してください。特に、各部署や従事者で毎月の線量の範囲を把握しておいてイレギュラーに増えている部署や従事者がいないかも確認しましょう。妊娠可能な女性の場合には実効線量限度が5 mSv / 3月です。1か月間の実効線量が1 mSvを超える従事者は要注意です。気がついた時には線量限度を超えていたとか、四半期の2か月までは3 mSvを超えていなかったが3か月目に線量が増加し線量限度を超えてしまったということも十分に想定されます。そのため、線量限度を超えそうな部署や従事者については日ごろから注意喚起や教育訓練(研修)を実施しておくことが肝要です。また、線量が多くなる原因を調査し、以下に示すようなことがあれば改善する必要があります。
- 防護機材を使用していなかったり、あるいは適切に使用していない。
- 不必要なX線透視が多い、あるいは特定の従事者のX線透視時間が長い。
- 患者のケアーをX線透視をしていない時でも可能なのにX線透視中に行っている。
- 放射線検査・治療件数が増加している。あるいは放射線検査・治療を実施する医療従事者が減って医療従事者1人あたりの件数が増加している。
なお、これらは一例です。放射線検査・治療の実施状況をよく把握してください。
眼の水晶体の等価線量が当初の推定より多くなってきた場合、途中で防護眼鏡や水晶体の等価線量専用の個人線量計を配布することが考えられます。この場合も、防護眼鏡や専用の個人線量計の配布、着用基準を決めておくことが大事です。
②毎月の測定線量の迅速報告システムを利用しよう
次に、線量測定サービス会社と契約して従事者の毎月の職業被ばく線量を測定していると思います。線量測定サービス会社では通常の測定結果の報告とは別に迅速に結果を報告するシステムを持っています。このシステムを利用している病院も多いとは思いますが、報告基準、方法ならびに報告を受け確認する者(以下、確認者)が適切かどうかも含めて再確認してください。一般的には実効線量の線量基準を決めて線量基準を超えた従事者がいた場合にはFAXやメール等で報告するかたちが多いと思います。
実効線量の線量基準は病院の考え方によりますが、上述の妊娠可能な女性の実効線量限度である5 mSv / 3月を超えないようにするためには1 mSv / 月以上とするのも一案と思います。
また、眼の水晶体の等価線量についても線量測定サービス会社と相談して可能であれば同様に測定結果の迅速報告システムを導入することをお勧めします。これも病院の考え方によりますが、新等価線量限度の年平均が20 mSvですので1か月間の測定結果が2 mSv以上の場合は迅速報告というのも一案ではないでしょうか。
これらの線量基準は病院の線量管理状況にもよりますので病院全体の組織で判断してください。
方法や報告を受ける者は、迅速に報告された結果を迅速に確認できる方法や報告を受ける者としなければならないことは自明です。私自身はApple Watchでメールの着信と概要が分かるようにしていますので瞬時に確認することが可能です。そこまではしなくても毎日メールをチェックしている方やそういう役割を与えた職員、あるいはグループのメールアドレスやLINEにメールが来るようにするのも良いかもしれません。
ただ、迅速に結果報告が来るだけでも十分ではありません。線量限度を超えそうな線量であった場合やこのまま放置した場合に線量限度を超える可能性がある場合には、当該従事者に対して線量限度を超えないようにするための措置を果断に実施しなければなりません。線量にもよりますが、原因がはっきりせずこのまま放置すると線量限度を超える可能性がある場合には、一時的に当該従事者を被ばくすることのない部署(業務)、あるいは被ばくする可能性はあるが著しく線量の少ない部署(業務)に配置転換することが必要になる場合もあります。例えば、X線透視装置を使用した部署(業務)から、X線撮影が主の部署(業務)などでほとんど被ばくしない部署(業務)ということもあるかもしれません。医師の場合は業務変更が難しいことが多いですので当該従事者の所属長である診療科部長と相談して措置を検討することになると考えられます。看護師の場合には、配置転換を嫌がったりする場合もあるようですので不当な配置転換と勘違いされたりしないように当該従事者の意向も可能であれば出来るだけ聞いて措置を判断すべきと思います。措置をお話する場合も複数の職員で措置を講じなければならない理由を丁寧に説明することをお勧めします。また、被ばく線量による人体影響についても分かりやすい資料等を使って説明すべきと思います。
③ 個人線量計の回収と線量測定サービス会社への送付を迅速に行いましょう
そして、最後に毎月の個人線量計の回収と線量測定サービス会社への送付を迅速に行うことを推奨します。個人線量計を月末まで着用してから翌月に回収するまでの時間やすべての個人線量計が回収できてから送付するまでの時間が長くなればなるほど上述の迅速結果報告システムを導入していても確認する時期は遅れてしまいます。確認が遅れるということは線量限度を超えないようにするための措置も遅れることにつながり線量限度を超えるリスクは高まるということになります。なかなか返却してくれない方もいて、全部揃うのを待っていると遅くなり、どこかで見切りをつけて発送ということがあるかもしれません。電離則では従事者に対する教育訓練(研修)は明確にはなっていませんが教育訓練(研修)を通じて改正電離則に基づく職業被ばくの管理の重要性を従事者全員に理解していただき協力していただくしかありません。
このコンテンツだけでかなり長い文章になってしまいました。冗長なところもあったかもしれませんが、職業被ばく線量限度を遵守し適切に管理することは必須です。ただ、それだけを行えば良いわけではなく付随して様々な問題も生じかねませんので事前の準備と慎重かつ果断な対応が求められることを知っておくべきと思います。
2021.03.13