職業被ばく

X線診療室内の線量分布測定の推奨

本学渡邉研究室が研究班(*1)と共同で開発した、ポール法の学会発表を行われました(*2、*3)。

ポール法は、簡便かつ汎用的な線量分布測定法である、との成果が出ています。

*1:令和元年度~令和3年度の労災疾病臨床研究事業費補助金研究「医療分野の放射線業務における被ばくの実態と被ばく低減に関する調査研究」(研究代表者:細野眞(近畿大学 教授))
*2:山本和幸、岩崎真之、渡邉 浩、他.空間線量測定における簡便かつ汎用測定法:ポール法の提案.第51回日本IVR学会総会 2022.06.04~6(神戸)
*3:岩崎真之、山本和幸、渡邉 浩、他.空間線量分布測定における簡便かつ汎用測定法(ポール法)の有用性.第30回日本心血管インターベンション治療学会学術集会 2022.7.23(横浜)

2021年4月1日施行の改正電離放射線障害防止規則により職業被ばくの低減が求められています。特に、IVR術者である医師の水晶体等価線量が多いことから、場合によってはIVR件数を減らさなければならない可能性も危惧されています。それは、新等価線量限度(100 mSv/5年かつ50 mSv/年)が、旧等価線量限度(150 mSv/年)よりも大幅に低いためです。年換算にすると1/7.5になりました。
IVRは患者の救命行為でもあります。IVR件数を減らすということは、救える患者の命が減らされる可能性がある、ということを意味します。
IVR件数を減らさないようにするために、また、医師をはじめとした医療従事者の職業被ばくを減らすことが必要です。

職業被ばくを減らすためには、医師や看護師にIVRを施行するX線診療室(レントゲン室と呼ばれることもあります)の室内の線量を知ってもらうことが重要です。しかし、放射線は目には見えません。そのため、X線診療室内の線量を可視化することが必要です。

本学で開発したポール法は、この線量(分布)の可視化を簡便に行うことができます。

ポール法を使って内視鏡室内の線量を測定し、術者である医師(消化器内科医)の線量を報告しました(*4)。この論文のTable 1と2の線量から、防護クロスを使った場合と防護クロスを使わない場合の線量分布を下記の図に示します。

左側が防護クロスを使わなかった場合で、右側が防護クロスを使った場合です。X線管の周りに赤の点線で示したのが防護クロスです。X線管から患者までを防護クロスで覆うことにより、周囲の線量を低減することができます。数値は水晶体の等価線量(3 mm線量当量(mSv/h))です。線量が高いほど赤くなるように表示しています。

*4:渡邉 浩,他.ERCP検査におけるX線診療室内散乱線量の個人線量当量としての測定.日本放射線技術学会雑誌 2022;78(4):364-371.
研究成果論文「 ERCP検査におけるX線診療室内散乱線量の個人線量当量としての測定」が早期公開されました – WEB放射線管理室 (radi-manage.site)


図 ERCR検査における防護クロスの有無による線量分布の変化

一目で分かるように、防護クロスを使った方が線量が低くなります。これが線量と防護クロスの線量低減効果の可視化です。

また、防護クロスを使わない場合の線量分布を見ると、最も高い場所はX線管(X線装置)の最も近傍であることが分かります。線量(率)は2.9 mSv/hです。しかし、その下側の数値は0.80 mSv/hと、かなり低くなっています。つまり、医師や看護師の立つ位置によって自分が受ける被ばく線量の多寡を容易に理解することができます。ひとマスの距離は50 cmです。つまり、一歩程度下がると線量が1/3以下になることが分かります。ERCPの手技によっては、患者の最も近傍にいなければならない時もあると思いますが、少し離れても良い時は、半歩下がるだけでもかなり線量を下げることも容易に分かります。
このようなちょっとした線量低減の意識を医師や看護師に持っていただくことが大切です。

このように、線量分布を可視化することが、線量低減意識を持っていただくことに有効です。

そのため、IVRを施行するX線診療室内の線量分布を測定することが必要になります。しかし、線量分布を測定することは簡単ではありません。従来は、サーベイメータ(線量計)を持つか点滴台に付けて、1点ごとに測定を行っていました。室内で測定する人(主に診療放射線技師)は、放射線防護衣を着用しますが、被ばくしながらこの測定を行っていました。図に示したポイントだけでも21回被ばくしなければなりません。防護クロスの有無による線量の差を示す場合は、その2倍の測定(被ばく)が必要になります。つまり、X線診療室内の線量分布を測定することはかなりの労力と測定者の被ばくが必要になり、容易ではないことがお分かりいただけると思います。

最近では、ジャングルジム法という簡便な測定法が紹介されていました。この方法は従来の方法に比べれば、簡便で、しかも測定者が被ばくしなくても良い画期的な方法です。しかし、ポール法は、さらに簡便に、なおかつ汎用性の高い測定法であるとの結果が出ています(冒頭の学会報告)。
研究成果がJ-RIMEのホームページ(*5)にも、厚生労働省労災疾病臨床研究事業 放射線防護分野研究班合同連絡会議資料として掲載されていますので、是非ご覧ください。

*5:厚生労働省労災疾病臨床研究事業 放射線防護分野研究班合同連絡会議資料
http://www.radher.jp/J-RIME/

図に示した防護クロスの有無による線量分布の差異は、防護クロスの線量低減効果を明瞭に示しています。ERCPの術者の医師の水晶体等価線量を線量限度以下にするために、防護クロスが必須であることを論文(*4)で示しています。

しかし、防護クロスは安いものではありません。病院収入を増やすことに直結しない設備・備品の購入は、現在の病院では簡単ではありません。
そのため、病院で防護クロスを購入する際のエビデンスの一つに、本記事の図や論文をご使用ください。
防護クロスを試用できる場合は、ポール法を使って実際に測定するのも良いと思います。

学会発表を行ったことで、ポール法で測定してみたい、という声をいただくようになりました。ポール法自体の説明や購入方法を出来るだけ早く紹介したいと思います。

本記事が、病院の放射線管理の向上や医師や看護師等の医療従事者の職業被ばく低減に役立ちましたら幸いです。

2022.08.06

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