2021年5月1日に掲載した記事で個人報告書に記載された職業被ばく線量の見方を紹介しました。また、2021年5月15日に掲載した記事で個人報告書あるいは病院への正式な報告書に記載された測定値から個人線量計の不適切な着用方法の見分け方と対応方法を解説しています。なお、法令で放射線業務従事者(以下、従事者)に個人報告書を配布することが法令で義務付けられています。
個人報告書を使ってもう少し詳しく職業被ばく線量を確認する方法を解説します。
線量測定サービス会社から提供いただいた個人報告書の例を図1と図2に示します。
今回は図2を使って解説します。
図2の赤枠で囲んだところに測定値が表示されています。
この例では頭頚部と体幹部(胸腹部)が不均等被ばくになっている例です。
また、水晶体の等価線量専用の個人線量計も着用したかたちになっているようです。
なお、この解説は私が勝手に読み取ったもので会社から説明を受けたものではありません。また、男性としているために体幹部は法令で義務づけられた胸部に着用しています。
図3に示したように、IVR等のX線透視を用いる放射線診療に従事する医療従事者は放射線防護衣を着用して作業しますので、放射線防護衣で防護している体幹部と防護していない頭頚部の線量が不均等になります。これを不均等被ばくと言います。
今回の個人報告書の例では、頭頚部の測定値は1 cm線量当量と70 µm線量当量の両方が0.1 mSvで、胸部は1 cm線量当量が1.5 mSv、70 µm線量当量が1.6 mSvでした。
1 cm線量当量は主に実効線量の算定に用い、70 µm線量当量は主に皮膚の等価線量の算定に用います。ここでは詳細な説明は割愛し後日解説することにします。また、実効線量の算定方法は別の記事で解説していますので参照してください。
頭頚部の線量は放射線防護衣で防護されていないため胸部の線量よりも高い線量になっています。放射線防護衣による線量低減率は放射線防護衣の鉛当量の違いや被ばく状況などによって異なります。ただし、同じような作業環境であれば一定の範囲に収まるはずですので放射線管理者ならびに従事者は把握しておいた方が良いでしょう。
胸部の線量は、今回報告された12月の線量は0.1 mSvでした。そして年度の合計は0.4 mSvでした。Mの数の欄がありますが、Mとは個人線量計の検出限界未満を意味します。図1の線量測定サービス会社ではXと表記されます。ちなみに2社の個人線量計の検出限界は0.1 mSvです。一般的に月ごとに個人線量計は配布され、測定していますので、この例ではM数が5回になっていますので4月から12月までの9か月間で検出限界未満であった月が5回あったということになります。残りの4か月は検出限界を超えていた月になりますが、その合計が0.4 mSvということになります。したがって、この4か月はいずれも測定値が0.1 mSvであったということになります。つまり、この従事者が毎月同じ放射線診療に従事していたとしたら、検出限界を超えるか超えないかのぎりぎりの被ばく状況の中で放射線業務を行っているのではないかということが推察できます。もし、従事する業務が月ごとにローテーションしている場合はその業務内容と照合することで検出限界を超えて被ばくする業務が何かを推察できることになります。被ばく線量が比較的多い業務が推察できるのであれば、その業務において被ばく低減ができる方策がないかを検討することも可能になります。例えば、無駄なX線透視が多い傾向がある場合にはそれを減らすことや防護機材の使い方が適切でない場合は研修を行って適切に使えるようにするとかが考えられます。室内の線量分布を可視化して一歩下がって線量の少ない位置で作業するということも一案です。これらの方策を複合して用いると線量が大幅に下がることに繋がるかもしれません。今回の例では個人線量計の検出限界を前後の線量でしたが、線量がもっと高い場合では特にこのような検討が必要になるはずです。
頭頚部の線量は放射線防護衣で防護していないために胸部に比べて線量が高くなっていました。
今回の例では水晶体の等価線量は専用の個人線量計で測定していますのでその測定値が表示されています。1 cm線量当量と3 mm線量当量の違いはありますが、水晶体の線量(数値)は頭頚部の線量(数値)のおおよそ半分になっています。これはおそらく防護眼鏡を着用して水晶体の線量を低減したと仮定して作られたのではないかと考えています。防護眼鏡の線量低減率は鉛当量、タイプならびに被ばく状況によって異なりますが一般的には50~60%とされています。
もし、防護眼鏡を使わず水晶体専用の個人線量計を着用しなかったら頭頚部の線量をそのまま水晶体の線量として算定しなければなりません。
2021年4月1日に施行した改正電離放射線障害防止規則(以下、電離則)では眼の水晶体の等価線量限度が従来では「150 mSv/年」であったのが「100 mSv/5年かつ50 mSv/年」と大幅に引き下げられました。そのため、水晶体の等価線量を低減し新等価線量限度を遵守することが重要になります。
そのため、水晶体の被ばく線量が高い従事者は積極的に防護眼鏡を着用して水晶体の線量を低減する必要があります。また、同時に水晶体の等価線量を専用の個人線量計で測定し正しく測定、算定することが必要です。特に、等価線量限度を超えそうな従事者については早めに防護眼鏡の着用と専用の個人線量計の着用が求められます。ただし、等価線量限度を超えなければ良いという考え方ではなく、できるだけ線量を低減できるように放射線管理者と従事者がコミュニケーションを取って進めていくことが肝要と考えています。
今回の例では水晶体の等価線量の測定値は0.8 mSvで年度では6.0 mSvでM数はゼロでした。この例の従事者は防護眼鏡を着用していても毎月検出限界を超える線量の被ばくがあり、平均約0.7mSv/月被ばくしていることになります。この傾向のまま1年間放射線業務を行うと水晶体の等価線量は9.0 mSvとなります。新等価線量限度の年平均は20 mSvですのでその約半分くらいの被ばく線量になります。
こにように個人報告書の数値を確認するだけでも多くのことが分かります。
放射線管理者だけでなく従事者も自分の被ばく線量がどのくらいなのか、線量限度を超えそうか、正しく着用できているか、防護機材を適切に使えているか、水晶体専用の個人線量計を着用すべきかを考えてください。
2021.05.29