医療被ばく

医療被ばく線量を最適化するためのベンチマークドーズ(BD)の紹介

医療被ばくの適正管理のために2020年4月1日に改正医療法施行規則が施行しました。

改正医療法施行規則と関係通知により、医療被ばくの最適化は医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)が作成、公開している診断参考レベル(DRL)を用いて行います

DRLは野放図に線量が高い病院にそれを気づかせ最適化を促すために用いられます。しかし、DRLは同じ放射線検査であればすべての機器・技術の線量を包含しています。

しかし、使用する医療機器・技術の中には線量が明らかに異なるものがあります。
現在のDRLは、それらが混在した調査結果の75%タイル値を基準に決定されます。
極端な言い方をすると、線量が高い機器・技術と低い線量にすることができる機器・技術が混在している調査対象では線量が高い機器・技術が25%以上含まれると線量が高い機器・技術の結果でDRLが決定されることもあるわけです。
つまり、現在のDRLは線量が高い機器・技術のみのDRLと言っても過言ではないのです。
一方で、線量を低くすることができる機器・技術であるにも関わらず野放図に線量が高い状態で放射線検査を実施している病院がDRLを超えていない場合は最適化を図るという強いメッセージが届かないだけでなく、場合によっては最適化を図るレベルではないという誤ったメッセージを送ることにもなりかねません。

そのため、

筆者らはベンチマークドーズ(BD)を提案しています。

渡邉浩,関将志,新田正浩,芹田樹,前原善昭,大倉秀昭,村上朋史,山本和幸,佐藤努,田島隆人.一般撮影の医療被ばくの防護を最適化するためのベンチマークドーズ(BD)の提案, 日本放射線技術学会雑誌, 2018, 74(5), 443-451

BDは線量が明らかに異なる機器・技術であれば一緒にせずそれぞれ分けて解析し分けたグループでの75%タイル値を基準に設定されます。
BDがあることによって同じような線量の機器・技術の中の線量からBDが決定されますので野放図に線量が高い病院や最適化が十分ではない病院にそれを気づかせること可能になります。
もちろん、医療技術の急速な発達に伴って古くなった技術を使った機器・技術を淘汰するためにもDRLは必要です。

つまり、

筆者はBDとDRLを併用することが肝要

と考えています。

一般撮影ではCRの時代からFPDの時代に変化しつつあります。
CRとFPDでは線量差があることが知られています。
そこで筆者らはCRとFPDに分けたBDを提案しました。
詳細には上記参考文献を参照してください。
この論文では胸部正面、腹部正面と小児の胸部正面だけですが、福田らは多くの部位でBDを提示しています。
福田智哉,渡邉浩,佐藤努,宮副浩司,阿部猛,佐野美也子.一般撮影におけるローカル診断参考レベル(DRLs)としての労災DRLsとベンチマークドーズ(BDs)の提案.日本診療放射線技師会雑誌 2020;67(807):21-28

筆者らの論文ではCRとFPDのBDの提案だけでなく、小児胸部のグリッドの有無によるBDも提案しています。ICRPは小児についてはグリッドを使用することに慎重であるべきと提言しています(ICRP Publ.73)。グリッドを使用する目的は散乱線の除去ですが、小児では体厚が大きくなくグリッドを使うメリットが大きくない一方でグリッドを使うことで線量が高くなってしまうためです。医療被ばくの適正管理のための改正医療法施行規則が施行している中で

小児の放射線検査にグリッドを使うべきかについて議論が起こることを期待しています。

2021.03.10

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です