2021年4月1日から、水晶体の新等価線量限度を盛り込んだ改正電離放射線障害防止規則(電離則)が施行します。
また、2021年度のスタートです。
放射線管理は年間計画を立ててPDCAを回して改善していきます。
放射性同位元素等の規制に関する法律ではPDCAサイクルを回して改善することを求めています。
医療被ばくと職業被ばくの適正管理も年間計画を立ててPDCAを回して改善していきましょう。
改正電離則よりも1年前に施行した改正医療法施行規則では、医療被ばくの適正管理のために放射線従事者等に対して「放射線診療に従事する者に対する診療用放射線の安全利用のための研修」を義務付けました。
対象者は医療被ばくの正当化・最適化に付随する業務に従事する者です。
しかし、一方、放射線業務従事者の職業被ばくを減らすことに繋がる研修は電離則では明確にはなっていません。
IVR(Interventional radiology)を行う医療従事者の職業被ばくの主たる原因はX線診療室内に発生する散乱線です。散乱線のおおもとはエックス線装置から患者に照射される一次線です。一次線と散乱線は相関関係にあると考えられます。つまり、医療被ばくである一次線を減らすことが医療従事者の職業被ばくを減らすことになるのです。
つまり、両者は一体と考えて低減できるのです。
そのため、改正医療法施行規則に基づく職員研修と一緒に職業被ばくの低減のための研修を併せて実施するのが合理的です。
下記に改正医療法施行規則で義務づけられた職員研修項目を列挙しました。
- 医療被ばくの基本的な考え方に関する事項
- 放射線診療の正当化に関する事項
- 防護の最適化に関する事項
- 放射線障害が生じた場合の対応に関する事項
- 患者への情報提供に関する事項
これに基本的な研修項目と考えられる放射線に関する基礎知識や人体影響、職業被ばくを低減するための項目を追加すれば、医療被ばくと職業被ばくを低減するための研修を総括的に行うことができます。
- 医療従事者に必要な放射線防護の基礎知識
- 人体影響、防護法令、個人線量計の着用方法、ポータブル2mルール
- 職業被ばくの適切な評価と低減方策
改正医療法施行規則で義務づけられた職員研修の対象者は放射線診療に従事する医療従事者ですが、これらの医療従事者の多くは放射線業務従事者であり職業被ばくを低減することが必要な対象者でもあるわけです。
放射線検査は原則エックス線診療室で行うことになっています。
しかし、状態の悪い患者の場合には病棟でポータブル撮影を行うことがあります。
ほとんどの看護師はポータブル撮影時の放射線防護を修得する必要があります。
したがって、これらの項目はほとんどの医療従事者には必須と考えても良いと思います。
病院では医療法に基づいて医療安全や感染対策に関する研修も全職員を対象に実施してると思います。これと一緒に実施するのも一考です。
改正医療法施行規則では異なる研修や講習会と合わせて実施することが可能としています。
しかし、大幅に引き下げられた水晶体の新等価線量限度を遵守するととも個人線量計の着用率が高まった後の実効線量等の線量限度を遵守するための研修には多くの時間が必要です。
そのため、全職員あるいは医療従事者全員を対象にした研修とIVRに携わる医療従事者に対象者と講習内容を分けて行うのが合理的です。
全職員あるいは医療従事者全員を対象にした研修では放射線防護の基礎知識と、医療被ばくおよび職業被ばくの適正管理の必要性を中心に行い、IVRに携わる医療従事者には専門的な内容を中心に行ってはどうでしょうか。
IVRでは患者の皮膚に紅斑等の放射線障害が生じる可能性があり、改正医療法施行規則ではIVRに限っては関係学会等のガイドラインに基づいて医療被ばく線量の管理としての以下の項目も行うことを義務づけていると考えられます。
関係学会等のガイドライン
- 循環器病の診断と治療に関するガイドライン(2010年度合同研究班報告).「循環器診療における放射線被ばくに関するガイドライン(2011年版)」 http://www.j-circ.or.jp/guideline/pdf/JCS2011_nagai_rad_h.pdf
- IVR 等に伴う放射線皮膚障害とその防護対策検討会.「IVRに伴う放射線皮膚障害の防止に関するガイドライン」.http://ivr-rt.umin.jp/shiryo/guideline1.pdf.
IVRにおける医療被ばく線量の管理としての項目
- インフォームドコンセント
- IVR手技における皮膚線量の管理目標値の決定
- IVRに使用する装置の線量率の把握
- 皮膚障害の影響線量を超えたと考えられる患者への対応
- スタッフの教育訓練
IVRに携わる医療従事者を対象とした研修項目の一例を示しました。
- IVR施行時の患者線量
- 国際機関や国内学会等の指針
- 事故や障害発生事例
- 行為の正当化とインフォームドコンセント
- 当院のルール(例:2Gyに達した場合の対応等)
- 患者線量の最適化と患者線量の記録、管理
- 放射線障害が生じた(可能性を含む)場合の対応
- 患者への情報提供の仕方
- 職業被ばくの適切な線量評価と線量低減方策
関係診療科の医師は定期的に研修を行っています。これらの研修の一つとして実施するとスムーズに実施できるのではないでしょうか。
2021.03.28