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放射線業務従事者に対する放射線防護研修に関する論文が掲載されました

下記の研究成果論文「 医療機関における放射線業務従事者に対する放射線防護研修に関する調査報告」が掲載されました。

渡邉 浩,山本和幸,坂本 肇,他.医療機関における放射線業務従事者に対する放射線防護研修に関する調査報告.日本診療放射線技師会誌 2022;69(834):49-56.
http://www.jart.jp/activity/ib0rgt00000082g1-att/2022-04_paper4.pdf

本研究(論文)は,令和2年度労災疾病臨床研究事業費補助金研究「医療分野の放射線業務における被ばくの実態と被ばく低減に関する調査研究」(研究代表者 細野 眞(近畿大学 教授))の研究活動の一環として行ったものです。

本研究の調査は,設問総数が74と非常に多く,医療機関における放射線業務従事者(以下,従事者)の放射線管理状況を幅広く調査しています.そのため,テーマごとに3編に分けて論文化しました.今回の論文は「防護研修」を主なテーマにしています.

本論文では,医療被ばくに関する重要なデータも示しています.

従事者の職業被ばくを低減するためには防護研修が重要です.

防護研修を実施し概ね対象者が受講している医療機関は1/3程度にとどまってることが分かりました.そのため,今後は,放射線診療に従事する医療従事者の職業被ばく低減のために防護研修を法令で義務化するかあるいは関係学会等によるガイドラインで促すことが重要です.医師は所属する学会のガイドラインを注視しているとも言われていますので,関係学会等がガイドラインとして示すのが現実的かつ効果的な方法かもしれません.

また,職業被ばく低減には防護研修内容が適切かどうかが問われます.水晶体の等価線量が高くなる傾向のある Vascular-IVRにおいて防護眼鏡や天井吊りタイプの防護板の使用方法,適切なパルス透視レートの選択,患者を受像器に近づけるあるいは適度に照射野を絞る等の内容が含まれている医療機関は約半数です.これをさらに高めることが求められます.

IVRにおいては,関係学会等より皮膚線量について管理目標値(2〜3 Gy)を設定し,IVRを継続するか否かの判断の機会とすることを推奨されています.しかし,「必ず行う」と「ほとんど行う」の合計は48%しかなく,「行っていない」と回答した施設は22%でした.医療被ばくの適正管理を求めた,令和2年4月1日に施行した改正医療法施行規則では,IVRを主に実施する循環器用X線装置については管理目標値による医療被ばくの管理を義務付けていると考えられますが,施行後約半年が経過した段階で多くの医療機関で実施できていないことが分かりました.

X線装置の定期点検実施率と始業・終業点検実施率はともに99%でほとんど実施できていましたが,IVRにおける管理目標値の設定・管理と基準透視線量の測定および診断参考レベル(DRL)との比較はそれぞれ73,79%で十分には実施できていないことが分かりました.IVR等による術者や介助者の職業被ばくはX線装置の照射線量に依存すると考えられます.職業被ばく管理の観点からもX線装置の管理や線量の把握が徹底されるように啓発するとともに確実に実施されていることを確認する必要があります.

高線量装置の更新が患者の医療被ばくと医療従事者の職業被ばくの両方の低減に繋がります

改正医療法施行規則ではIVRのDRLとの比較とそれを超えていた場合には直ちに低減することを検討することが求められています.現在のIVRのDRLは17 mGyです1).17 mGyを超えているX 線装置が22%ありますので,これらのX線装置は,原則最適化(低減)が求められています.医師等の水晶体の等価線量限度が新等価線量限度を超える恐れがある場合にはできる限り照射線量の低いX線装置の使用あるいは更新を推奨すべきです.照射線量の低いX線装置の使用あるいは更新は労働衛生の3管理2)の中の作業環境管理における労働環境のより上流の有害物質を排除していくという考え方にも合致します.

高線量装置を低線量装置に更新することは,医療被ばくと職業被ばくの両方の低減に繋がることを医師をはじめ,関係者に理解していただきたいと思います.高額なX線装置を更新することは,病院にとっては簡単なことではありません.そのため,厚生労働省や関係学会等が協力して病院に促す活動に期待しています.

1) 医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME):日本の診断参考レベル(2020年版).http://www.radher.jp/J-RIME/report/JapanDRL2020_jp.pdf
2) 厚生労働省:労働衛生の3管理.https://anzeninfo.mhlw.go.jp/yougo/yougo28_1.html

本研究成果(論文)が,患者の医療被ばくや医療従事者の職業被ばく低減に少しでも貢献できれば幸いです.

なお,この成果の一部を,下記の学会のフォーラムで発表予定です.
第78回日本放射線技術学会総会学術大会(パシフィコ横浜)
JSRT関係法令委員会・JSMP防護委員会合同フォーラム
「不均等被ばく管理への現場での実態と対策」
2022年4月16日(土)

2022.04.09

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  1. […] 私の分担研究では、医療機関の放射線管理状況に関するアンケート調査を2019年度から2021年度の3年間、行っています。2020年度に行った調査は設問総数が74にものぼる幅広い調査を行いました。そのため、調査結果を3編の論文に分割してまとめ、基本的な放射線管理、防護研修ならびに測定器と防護機材の配備・着用状況の3つのテーマごとに論文化して日本診療放射線技師会雑誌に投稿しており、既に3編ともアクセプトされています。そして、防護研修をテーマにした論文が2020年4月号に掲載されました。この紹介は既に記事にしています。他の2編も随時掲載されるものと思います。本日は時間の都合上、一部のみ紹介しました。全体かつ詳細には論文ならびに研究班の報告書でご確認ください。なお、2021年度もほぼ同様の調査を行って報告しております。 […]

  2. […] 本研究(論文)は,令和2年度労災疾病臨床研究事業費補助金研究「医療分野の放射線業務における被ばくの実態と被ばく低減に関する調査研究」(研究代表者 細野 眞(近畿大学 教授))の研究活動の一環として行ったものです。 本研究の調査は,設問総数が74と非常に多く,医療機関における放射線業務従事者(以下,従事者)の放射線管理状況を幅広く調査しています.そのため,テーマごとに3編に分けて論文化しました.今回の論文は「放射線管理」を主なテーマにしています. 1つ目の「防護研修」をテーマにした論文は2022年4月に日本診療放射線技師会雑誌に掲載されています. 放射線業務従事者に対する放射線防護研修に関する論文が掲載されました … […]

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