医療機関における職業被ばく管理に関するガイド

医療機関における職業被ばく管理に関するガイド 第3章 :基本的な従事者管理

3. 基本的な従事者管理

本章から、医療機関で職業被ばくを適正に管理するための実務に入ります。2021年度の労災疾病臨床研究事業による調査結果1)を適宜紹介しながら記述します。

3-1 従事者名簿の作成

まず、職業被ばく線量管理を行う従事者について、取り扱う放射性同位元素等やモダリティによる対象となる法令の区分を整理、理解してください。放射線や放射性同位元素を取り扱う従事者は、様々な法令で職業被ばくを管理することが求められています。図5に法令の区分を示しました。職業として放射線や放射性同位元素を取り扱う従事者は、労働安全衛生法の対象になります。労働安全衛生法の中に、電離則があります。公務員等を除く多くの方はこの電離則が労働安全を所管する法令として全員が管理を求められています。公務員は人事院規則があり、この対象となります。本ガイドでは電離則を中心に記していますので、人事院規則が対象になる病院の方は電離則を人事院規則に読み替えてください。また、放射線や放射性同位元素を使用する観点から、医療法やRI法の対象となる従事者がいます。したがって、従事者は少なくとも電離則と医療法あるいはRI法の二重の対象となっています。例えば、胸部や骨の一般撮影(通称レントゲン)を行う従事者は電離則と医療法の対象の従事者となります。しかし、RI法の対象ではありません。また、放射線治療に使用するリニアックの業務に従事する従事者は、電離則、医療法とRI法の3つの法令の対象になる従事者となります。これらの対象となる法令を理解した上で従事者の職業被ばくを管理する必要があります。
まずは、従事者の管理名簿を作成してください。放射線管理上は、この名簿に、従事者登録と抹消日、個人線量計は配布日、電離健康診断実施日ならびに教育訓練(研修)実施日等が記載できるようになっていると従事者の管理全般が一目で確認できます。本ガイドでは、職業被ばく管理に絞っていますので、従事者として管理すべき対象者の把握ができていれば最低限の目標は達成できます。

3-2 従事者への個人線量計の配布と回収

従事者には、個人線量計を基本的に毎月配布し、回収して線量測定サービス会社に送付していることと思います。3-1で確認した従事者名簿と個人線量計配布者が合致していることを確認してください。また、回収した個人線量計はできるだけ早く線量測定サービス会社に送付してください。送付が遅れると、測定線量の確認が遅くなり、異常に高い線量だった場合の対応が遅れます。一般的に、個人線量計を送付してから測定線量が確認できるまでに1か月程度はかかります。つまり、異常を確認して対処するまでの1か月は異常の原因を排除できず、異常な線量が継続されてしまう可能性があるということです。場合によってはすでに線量限度を超えていた、ということも生じかねません。

3-3 従事者の職業被ばく線量の定期チェック

毎月測定された職業被ばく線量の結果が、線量測定サービス会社から送付されてきます。担当者を決めて毎月職業被ばく線量をチェックしてください。線量限度を超えていないことを確認するのはもちろんですが、イレギュラーに高くなっている従事者がいないかも確認してくいださい。2021年度の調査結果によれば、毎月の職業被ばく線量をチェックしている病院は94%です。また、チェックしている担当者は、事務職が26%、診療放射線技師が79%、医師とその他が7%です。線量の多寡が判断できる方がチェックするのが望ましいです。事務職が行う場合は、判断基準を設定してその基準を基に判断できるようにしてください。

職業被ばく線量をチェックする目的を明確にしてください。目的の第一は、法定の線量限度を遵守できているか、あるいは超えるおそれがないかの確認です。図6に職業被ばくの線量限度を示しました。実効線量の線量限度は、「定められた5年間に100 mSv、なおかついかなる1年間に50 mSvを超えない」です。年平均で考えると20 mSv/年が一つの目安です。報告書の見方は関連ブログ記事「職業被ばく線量に関する個人報告書の見方」を参照してください。個人報告書と病院として管理する記録の様式は多少異なりますが、見方は同じです。

20 mSv/年を超えていないかを確認します。超えていれば50 mSv/年を超えていないかを確認します。50 mSv/年を超えていれば法令違反になっている可能性が高いですので、すぐに従事者の放射線業務を停止させ、管理区域への立ち入りを禁止するとともに病院としての対応を協議することになります。50 mSv/年を超えていなくても、20 mSv/年を超えている場合は、「定められた5年間に100 mSv」を超える可能性がある従事者になりますので、この従事者は、特別な管理が必要になりますので、先述の従事者名簿にマーカーを施して、そのことが分かるようにしてください。線量限度を超えるおそれのある従事者の把握は、年度の後半になればなるほど重要になります。年度の前半(から年度末まで)では、20 mSv/年を12月で割った1.7 mSv/月を基準線量として、チェックしてください。ただし、職業被ばく線量の多い従事者への対応は慎重に行ってください。IVRのように、患者の救命行為を数多く実施しているためにやむを得ず職業被ばく線量が多くなっている可能性が高いですので、法令違反者のような扱いにならないように敬意をもって対応されることを推奨します。次に、部署や職種によって、一般的な職業被ばく線量を把握し、イレギュラーに高くなっている従事者を把握するための基準線量を定めてください。そして、その基準線量を超えていないかを確認してください。例えば、IVRを実施する医師であれば、比較的高い線量になっていると思います。研修を行ってある程度線量低減ができていれば、その場合での線量範囲を把握して、確認してください。例えば、1 mSv/月を基準線量として、この基準線量を超えた場合は最近の放射線業務状況を確認させていただき、特別にX線透視時間の長かった検査や治療が無かったか、放射線防護衣に個人線量計を着けっぱなしで、X線透視室内に置いておいたとかが無かったかどうか等、を確認してください。個人線量計の間違った付け方の確認方法はブログ記事「測定値から個人線量計の不適切な着用方法の見分ける方法」を参照してください。従事者によって範囲が異なる場合は、従事者ごとに基準線量を設定してください。細かいかもしれませんが、職業被ばく線量が高い従事者の場合は、そのくらいの管理が必要と思います。また、すでに1か月以上前のことであるため、できるだけ早く、当該従事者に確認してください。
また、毎月の職業被ばく線量がほとんど検出限界(報告書の表示が“X”または“M”)の部署や従事者なのに、実数(0.1 mSv/月以上)が測定された場合は、その線量によっても確認を行ってください。確認内容は、職業被ばく線量が高い従事者の場合とほぼ同じです。

これまで、実効線量について、従事者の職業被ばく線量のチェック方法を示してきました。職業被ばく線量限度の一つである、眼の水晶体の等価線量限度は、表記としては同じように、「定められた5年間に100 mSv、なおかついかなる1年間に50 mSvを超えないこと」となりました。この改正法令は、2021年4月1日に施行されています。水晶体等価線量限度を遵守するための線量チェック基準は実効線量と同じように考えて対応してください。
その他に、職業被ばくの線量限度には、皮膚があり、500 mSv/年となっています。手指に放射線障害が生じる事例が報告されており、職業被ばく管理として重要です。本章では詳述しませんので、記事「医師を中心とした医療従事者の職業被ばくの本格的低減へ -放射線障害の発生防止のために-」を参考にしてください。チェックする基準線量の設定方法の考え方は、実効線量と同じで良いと思います。

*参照:測定報告書の見方
*参照:個人線量計の間違った付け方の確認方法

3-3 職業被ばく線量の病院全体管理

従事者の職業被ばく線量の測定結果は、病院全体でも把握、管理してください。具体的には、放射線安全管理委員会と労働安全衛生委員会の両方に定期的に報告してください。職業被ばく管理に関する組織を特別に編成した場合は、もちろんその組織にも報告し、必要に応じて指示を仰いでください。線量限度を超えるおそれのある従事者がいる場合には、線量限度を超えないようにするための対策とその成否等も報告事項です。放射線安全管理委員会は病院の放射線安全管理全般を把握、管理する責務があり、労働安全衛生委員会は労働者である従事者の安全管理を行う責務があるため、どちらも報告が必要です。ただし、報告に基づいて主に対応する委員会や組織はあらかじめ決めておいた方が良いと思います。
2021年度の調査結果(複数回答可)では、報告する組織は、放射線安全を担保する委員会が78%。労働安全を担保する委員会が38%、病院長を含む病院の幹部会議が3%でした。

3-4 線量測定サービスメーカからの迅速報告措置

現在、職業被ばくの線量測定サービスメーカには、長瀬ランダウア株式会社と株式会社千代田テクノルがあります。両社ともに、測定された線量に応じた迅速報告システムを導入しています。毎月測定された個人線量計は翌月に線量測定サービスメーカに送付され、半月~1か月程度で測定値が確認できるようになります。報告書が病院に届くまでにはさらに半月から1か月かかります。病院の確認が遅れれば遅れるほど、線量が多い従事者に対する措置が遅くなります。そのため、病院から基準線量を指定して、基準線量以上の場合には、メール、FAXまたは電話等で報告してもらうことが可能です。IVRを行っているかどうかや職業被ばく線量が多いかどうかに関わらず、事故的に線量が高くなることはあり得ますので、ほとんどの病院で導入されることを推奨します。職業被ばく線量が高い従事者がいる場合は必須と考えてください。ちなみに、2021年度の調査結果では、このシステムを導入している病院は65%でした。

参考文献
1)労災疾病臨床研究事業.医療分野の放射線業務における被ばくの実態と被ばく低減に関する調査研究.令和3年度 総括・分担研究報告書(研究代表者 細野 眞).令和4(2022)年3月.

2023.03.05
群馬パース大学
渡邉 浩

 

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