職業被ばく

医療における職業被ばくの適正管理に向けた活動をスタートさせよう

2011年に国際放射線防護委員会は「5年間の平均が20 mSv/年を超えず、なおかつ1年間においても50mSvを超えない」とする職業被ばく限度の一つである眼の水晶体等価線量限度を勧告し(ソウル声明)、Pub.118を刊行しました。そして、2020年4月に水晶体の新等価線量限度を含む改正放射線障害電離則(以下、電離則)が公布され、2021年4月1日に施行します。
(掲載時は施行前でしたが現在(2021年4月17日)施行しています。)

わが国における旧法の水晶体の等価線量限度は150mSv/年であり、1年平均で約7分の1にまで引き下げられることとなりました。

水晶体の等価線量限度の引き下げ

150 mSv/年 ⇒ 100 mSv/5年かつ50 mSv/年

ただし、施行後2年間は特殊な事情の医師に限っては50 mSv/年とする経過措置が盛り込まれています。

そのため、これまでよりも積極的に従事者の職業被ばくを低減する必要があります。また、今回の法改正の過程で、医師を中心に職業被ばく線量を測定するための個人線量計の着用率が低いことが明らかになりました。個人線量計の着用率が高まれば測定された被ばく線量は高くなります。つまり、個人線量計の着用率を100%にすることと職業被ばく線量(特に水晶体)の低減という相反する2つのことを短期間に達成しなければならなくなりました。

医療被ばくの適正管理のための改正医療法施行規則が2020年4月1日に施行しています。(本サイト2021年2月13日の記事を参照してください。)

この改正も医療現場にとって重要なものですが、大変さから言うと職業被ばくの改正の方が数段上です。この理由は後日アップします。

医療現場で改正電離則に対応して職業被ばくを適正に管理する方法を今後提供していく予定です。皆様の参考になれば幸いです。

なお、本サイトからの情報提供等はあくまで参考です。病院のそれぞれの事情に合わせてご判断ください。

まずは第一段として病院として管理体制として構築すべきことを以下に列挙しました。

  • ① 病院全体としての職業被ばく管理組織(委員会)を立ち上げる。
  • ② 職員全員に病院全体として職業被ばくの適正管理に向けて臨むことを宣言する。
  • ③ 現在の職業被ばく管理状況を調査、把握する。

以下、具体的に述べていきます。

① 病院全体としての職業被ばく管理組織(委員会)を立ち上げる。

医師を中心に職業被ばく線量を測定するための個人線量計の着用率が低いことは前述しました。着用率が高くなれば自ずと線量は高くなります。着用率が100%になれば多くの診療科医が高線量の放射線業務従事者になると考えています。特に、血管造影を実施している循環器内科医や脳神経外科医、X線透視装置を用いた検査を多く実施している消化器内科医・外科医や整形外科医などの先生方です。これらの医師は患者の検査や治療のため自ら放射線に被ばくしながら医療行為であるIVR等の放射線診療を実施しています。医師の働き方改革が議論されていますが、自らの健康を犠牲にしている可能性のある働き方の改革も議論されるべきと思います。

横道にそれましたが、放射線検査や治療を主たる業務としている診療放射線技師や放射線科医の先生方や放射線検査・治療の従事する看護師等の医療従事者だけが対象になるわけではなく多くの職員が関係することを病院経営陣が理解し、病院全体として職業被ばくを適正に管理するための組織(委員会)を立ち上げることが必要です。

既存の放射線安全を担保する委員会や労働安全を担保する委員会が担当しても構いませんが、少なくとも数年はかなり大変かつ重要な作業になることから専門に担当する委員会を立ち上げることを推奨します。

② 職員全員に病院全体として職業被ばくの適正管理に向けて臨むことを宣言する。

①の専門の委員会の立ち上げの過程で、病院経営陣の認識と理解が必要になります。これも大変なことは承知していますがここでは詳細は割愛します。医療被ばくの適正管理のための活動が必要なことを病院経営陣に理解してもらう活動がなされたと思いますのでその方法を準用すれば良いと思います。

次に放射線業務従事者である医師全員が個人線量計を100%着用した場合、多くの医師が職業被ばくの線量限度を超える可能性がある対象者になると考えています。また、線量限度を超えなければ良いわけではなく医師が安心して働けるようにさらに線量を低減してく必要があります。また、放射線検査・治療に従事する看護師も放射線被ばくの不安を持ちながら従事して方もいます。医師や看護師以外の医療従事者も放射線検査・治療に従事することもあります。さらに、これらの放射線業務従事者の管理には事務局の主導あるいはサポートも不可欠です。つまり、多くの職員が連携して対応しなければ改正電離則に対応できません。そのため、病院全体として職業被ばくの適正管理に臨むことを病院長自らがリーダーシップをとって宣言することが重要です。

③ 現在の職業被ばく管理状況を調査、把握する。

実際の活動は多岐に渡ります。課題も多く作業量もかなり多くなると考えています。まずは、病院の現在の職業被ばくの管理状況を調査、把握することを推奨します。

調査、把握すべきことを以下に列挙しました。正直これから実施しなければならないことは山ほどありますがまずは以下の3つを確認してください。

  • (ア)放射線業務従事者数及び登録状況の確認
  • (イ)線量限度を超えそうな放射線業務従事者数と業務(X線診療室等)の確認
  • (ウ)線量限度を超えないようにするための方策が取られているか
  • (エ)病院全体の放射線管理とIVRの放射線防護方策の専門家がいるかどうか

(ア)放射線業務従事者数及び登録状況の確認

まず、各部署で現在放射線業務従事者に登録されている人数を確認してください。次に、放射線管理区域への立入(作業)頻度が少ないなどの理由で放射線業務従事者登録できていない職員の状況と人数も把握してください。

(イ)線量限度を超えそうな放射線業務従事者数と業務(X線診療室等)の確認

(ア)で放射線業務従事者の把握ができましたら、その中で線量限度を超えそうな人数がどのくらいいるかも確認してください。ただし、現在の線量だけで判断せず、個人線量計が適切に着用されているかどうかも確認して、100%着用したらどのくらいになるかも考慮して安全側に(多めに)人数を把握してください。なお、線量限度とは水晶体の新等価線量限度だけでなく実効線量も含みます。線量限度の改正で水晶体の新等価線量限度がクローズアップされていますが、個人線量計の着用率が100%になると実効線量限度も超える可能性が生じる放射線業務従事者もいると思います。また、(妊娠可能な)女性の放射線業務従事者の実効線量限度は5 mSv/3月で男性よりも管理期間が短くなっているために事実上厳しい線量限度になっています。
また、どの業務を行っているどの職種かも把握してください。

(ウ)線量限度を超えないようにするための方策が取られているかの確認

線量限度を超えないための方策が取られているかを確認してください。改正電離則の施行まであと少しですので、気がついたら線量限度を超えていたということのないようにしてください。詳細は後日アップするようにしますが、少なくとも毎月の線量は出来るだけ早くチェックするようにしてください。

(エ)病院全体の放射線管理とIVRの放射線防護方策の専門家がいるかどうかの確認

職業被ばくを適切に管理するためには病院全体の放射線管理とIVRの具体的な放射線防護方策の専門的知識・技術が必要になります。両方の知識・技術を持つ専門家がいればいいですがいなくてもチームで対応すれば良いと思います。片方あるいは両方いなければ早急に育成する必要があります。

最後に
改正電離則の施行まで時間がありませんので出来るだけ詰めて情報提供したいと考えています。

2021.02.14

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  1. […] 本サイトが2021年2月14に掲載した記事「職業被ばくの適正管理に向けて」で紹介した「線量限度を超えそうな放射線業務従事者数と業務(X線診療室等)の確認」は済んでいますでしょうか。 […]

  2. […] 2021年2月14日に掲載した記事で改正電離則に対応するための第一段として、下記に示した病院として管理体制の構築を提案しています。詳細は記事を確認してください。 […]

  3. […] そこで、本サイトでは2021年2月14日に「医療における職業被ばくの適正管理に向けた活動をスタートさせよう」を掲載して、病院としての活動を開始することを推奨し、活動例を示しました。 […]

  4. […] なお,職業被ばく線量限度の法改正の経緯やIVR術者である医師等の線量低減が求められていることについては本ブログの記事を参照ください. […]

研究成果論文「 ERCP検査におけるX線診療室内散乱線量の個人線量当量としての測定」が早期公開されました - WEB放射線管理室 へ返信する コメントをキャンセル

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