職業被ばく

測定値から個人線量計の不適切な着用方法の見分ける方法

先週「実効線量の計算方法から理解する個人線量計の正しい着用方法」、先々週「職業被ばく線量に関する個人報告書の見方」、法令で義務付けられている職業被ばくの個人報告書について解説をおこないました。

今回は、個人報告書あるいは病院への正式な報告書に記載された測定値から個人線量計の不適切な着用方法の見分け方を解説したいと思います。

この記事は基本的には病院の放射線管理者向けですが、放射線業務従事者(以下、従事者)の方々自身が自分の着用方法に問題がないかを確認することにも活用できます。

不均等被ばくの場合の個人線量計の着用位置

*X線透視を行うX線診療室内に放射線防護衣を着用して業務を行う場合

これまでのおさらいを兼ねて不均等被ばくの場合の個人線量計の着用位置を図1に示しました。着用位置は男性は頭頸部と腹部、(妊娠可能な)女性は頭頸部と腹部になります。また、放射線防護衣で防護された胸腹部と防護されていない頭頸部では被ばく線量が異なります。

線量測定サービス会社からは実効線量や眼の水晶体の等価線量などの職業被ばくの線量限度の指標の算定値だけが報告されるわけではなく、2個の個人線量計の測定値も報告されます。この測定値を確認することで個人線量計を正しく着用しているかをある程度見分けることができます。

個人線量計の不適切な着用例と測定値

事例1:2個とも放射線防護衣の外側に着用する場合

胸腹部などの体幹部と頭頸部の被ばく線量が不均等になる場合はそれぞれに測定することが法令で義務付けられています。しかし、従事者の中には図2に示したように放射線防護衣に2個とも同じように着用してしまう方がおります。
この場合、測定値は2個とも同じような数値になります。例えば、頭頚部0.8 mSv、胸部(または腹部)0.8 mSvのような感じです。被ばく状況によってはまったく同じにならないこともありますがほぼ同様の数値になることが多いです。
つまり、頭頚部と胸腹部の測定値がほぼ同じような場合は、不均等被ばくを正しく測定できる位置に着用していないと推察することができます。

事例2:2個とも放射線防護衣の内側に着用する場合

IVRの術者で件数も多い従事者にも関わらず正しく着用しているほぼ同様の業務を行う従事者よりもかなり低い線量で測定値もほぼ同じ場合は、図3に示すように2個とも放射線防護衣の中に着用していることが推察できます。

事例3:個人線量計をまったく着用していないか、ほとんど着用していない場合

IVRの術者で件数が多いにも関わらず2個の個人線量計の測定値がいずれもXかMの場合、この従事者は個人線量計をまったく着用していないか、ほとんど着用していないと水圧することができます。

今回紹介した不適切な着用事例は測定値から見分けることができる典型的な事例です。これら以外にも不適切な事例はありますので定期的に巡回して確認すること推奨します。
また、病院の部署あるいはIVRに種別によって通常どのくらいの範囲で線量が測定されるかを日頃から把握しておくとこの判断が容易にできます。

不適切な事例を確認した場合の対応

測定値から不適切な着用状況が推察できた場合、それで終わっては意味がありません。
不適切な着用をしている従事者にまずは注意喚起をする必要があります。
前任の病院では、このような事例の場合には事例ごとに注意文書の雛型を作成しておき、個人報告書を配布する際にこの注意文書も一緒に配布していました。
また、この文書は放射線管理者個人で出すのではなく放射線安全管理委員会のような病院組織として出す方が効果が高いと思います。この場合は事前に放射線安全管理委員会などでこのような活動を行うことの承認を得ておく必要があります。
病院組織で活動することによって部署の壁を取りはずして職業被ばくの適正な管理が実行できます。
何度か注意喚起しても変わらない場合は従事者の所属長への注意喚起や放射線安全管理委員長から直接注意するということを考えます。

今回は測定値から個人線量計の不適切な着用方法の見分け方とその後の対応方法について解説しましたが、以前紹介した記事のように日ごろから従事者に対して個人線量計の正しい着用方法を研修する機会を設けることが必要です。さらに、タイムアウトを活用してスタッフ全員で確認することが最も確実で効果的な方法です。

これまでの経験から従事者に正しく個人線量計を着用してもらうようにすることは簡単ではないことを承知していますが、法令改正を契機に病院全体で取り組むことを期待しています。

2021.05.15

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  1. […] 2021年5月1日に掲載した記事で個人報告書に記載された職業被ばく線量の見方を紹介しました。また、2021年5月15日に掲載した記事で個人報告書あるいは病院への正式な報告書に記載された測定値から個人線量計の不適切な着用方法の見分け方と対応方法を解説しています。なお、法令で放射線業務従事者(以下、従事者)に個人報告書を配布することが法令で義務付けられています。 […]

  2. […] 20 mSv/年を超えていないかを確認します。超えていれば50 mSv/年を超えていないかを確認します。50 mSv/年を超えていれば法令違反になっている可能性が高いですので、すぐに従事者の放射線業務を停止させ、管理区域への立ち入りを禁止するとともに病院としての対応を協議することになります。50 mSv/年を超えていなくても、20 mSv/年を超えている場合は、「定められた5年間に100 mSv」を超える可能性がある従事者になりますので、この従事者は、特別な管理が必要になりますので、先述の従事者名簿にマーカーを施して、そのことが分かるようにしてください。線量限度を超えるおそれのある従事者の把握は、年度の後半になればなるほど重要になります。年度の前半(から年度末まで)では、20 mSv/年を12月で割った1.7 mSv/月を基準線量として、チェックしてください。ただし、職業被ばく線量の多い従事者への対応は慎重に行ってください。IVRのように、患者の救命行為を数多く実施しているためにやむを得ず職業被ばく線量が多くなっている可能性が高いですので、法令違反者のような扱いにならないように敬意をもって対応されることを推奨します。次に、部署や職種によって、一般的な職業被ばく線量を把握し、イレギュラーに高くなっている従事者を把握するための基準線量を定めてください。そして、その基準線量を超えていないかを確認してください。例えば、IVRを実施する医師であれば、比較的高い線量になっていると思います。研修を行ってある程度線量低減ができていれば、その場合での線量範囲を把握して、確認してください。例えば、1 mSv/月を基準線量として、この基準線量を超えた場合は最近の放射線業務状況を確認させていただき、特別にX線透視時間の長かった検査や治療が無かったか、放射線防護衣に個人線量計を着けっぱなしで、X線透視室内に置いておいたとかが無かったかどうか等、を確認してください。個人線量計の間違った付け方の確認方法はブログ記事「測定値から個人線量計の不適切な着用方法の見分ける方法」を参照してください。従事者によって範囲が異なる場合は、従事者ごとに基準線量を設定してください。細かいかもしれませんが、職業被ばく線量が高い従事者の場合は、そのくらいの管理が必要と思います。また、すでに1か月以上前のことであるため、できるだけ早く、当該従事者に確認してください。 また、毎月の職業被ばく線量がほとんど検出限界(報告書の表示が“X”または“M”)の部署や従事者なのに、実数(0.1 mSv/月以上)が測定された場合は、その線量によっても確認を行ってください。確認内容は、職業被ばく線量が高い従事者の場合とほぼ同じです。 […]

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